花姫コネクト
 今日も部活を休んだ。姫先輩に会いたくなくて、また理由をつけて時間を潰す。

 図書室の(すみ)で、隠れるように本を開く。
 人も少なくて、ここが一番安心出来る。会わずに済む場所だから。

「ごめんね、手伝わせちゃって。部活大丈夫だった?」

 背表紙を確認しながら、高嶺くんが棚へ本を戻す。隣に立つ私も同じように、文字を確認しながら本を隙間(すきま)へ収める。

「へーき、へーき! この量を高嶺くんだけに頼む先生もどうかしてるよ」

 目の前に並べた椅子には、本が何冊も積み重なっていて。向こう側に座わる人が埋もれて見えないほど。

 たまたま図書委員の当番だった高嶺くんが、本の整理をすることになったらしい。

 知ってしまったら、手伝わないわけにはいかない。
 それにーー。


「私の方こそ、助かっちゃった。部活、行きづらいなぁって思ってたから」

 クラスの男子が、転入生の噂をしていた。パッチリ二重で可愛らしくて、親の仕事の都合でアメリカから日本へ帰って来たらしい。

 その子の顔は見ていないけど、正直不安だった。もしかしたら……。

 バサバサ、と持っていた本が何冊か落ちた。

「ええっ、うそ、ごめん! せっかく仕分けたのに」

 慌ててしゃがみ込むと、長い指が先に拾い上げる。

「今日、朝からずっと様子変だよ。体調悪い?」

 小さく首を振りながら、他の本を手に取る。悟られないように、顔を伏せたまま。

「花が咲くと、熱が出やすいって言うから」
「これは、違うの!」

 思わず張り上げた声に、自分の方が驚いている。
 耳元で白い花を揺らしながら、説得力のない言葉だ。

「たぶん、何かの間違いなの。だって」

 言いかけたとき、名前を呼ぶ声が降ってきた。斜め上から見下ろすのは、今一番会いたくなかった人。
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