花姫コネクト
「昨日はごめんなさい。本の整理投げ出して、一人でさせちゃって」

 翌朝、登校して来た高嶺くんを待ち構えて頭を下げる。いきなり木の陰から出たから、少し驚かせてしまった。

 ひと気のない時間が良かったし、早く謝りたくて。

「気にしないで。元々は僕の仕事だし、すぐ終わったから」

 優しく微笑んでくれるけど、高嶺くんの気づかいだと分かる。まだ山積みになっていたから、相当な時間がかかったはずだ。

 肩を並べて、静かな校舎を歩く。朝練をしている運動部を除けば、校内には誰もいない。

 二人だけの足音は、鼓動(こどう)(きざ)むように穏やかだ。

「今日のお昼、一緒に食べない? いい場所見つけたんだ」
「そうしたいけど……、でも」

 彩葉ちゃんたちとの習慣があるから、正直言い出しにくい。

 姫先輩と食堂へ行った時は、部活の話があるってことにしたけど、一瞬変な間があったから。快くは、思われていなかったかもしれない。

「誰かに合わせるのも大事だけど。無理して、居づらい場所にいなくていいと思うよ」

 高嶺くんは、たぶん気付いている。彩葉ちゃんたちとの関係に、居心地の悪さを感じていること。

 黙っていると、高嶺くんは続けて言う。

「大路さんの自由だから、好きに決めたらいいよ。僕はいつでも歓迎(かんげい)だから」
「……ありがとう」

 かばんの取手をグッと掴んで、踏み出す足に力を込める。

 時には、手を離す勇気も必要なのかもしれない。
 不安にしがみついて、気持ちにフタをしながら送っている毎日は、ほんとうに幸せなのかな。

 頑張って握りしめているものは、とても重くて、自分を苦しめるだけかもしれないのに。
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