花姫コネクト
 四限目のチャイムが鳴って、みんながざわざわと動き出す。半分は食堂へ行くから、残り半分は教室に残って食べる。

 弁当袋を握りしめて、深く息を吐く。意を決して、彩葉ちゃんに言うつもりだった。

「なんか、華ちゃんって秘密ばっかりだよねー。友達と思ってるなら、好きな人くらい教えてくれてもいいのにさ」

 すぐ後ろにいることに、友達のさあちんは気づいていない様子で話している。

 立っている私とばっちり目の合った彩葉ちゃんが、小声でさあちんと呼ぶ。

 気まずそうに振り返ったさあちんの顔は、心なしか不貞腐(ふてくさ)れていた。

「華ちゃん、うちらといても楽しくないでしょ」
「ちょっと、さあちん……」

 大きくなる(こと)()が、胸の風船をぐさぐさと刺していく。

「仕方なくいる感じなら、別にいてもらわなくていいけど」

 パンッと弾け飛ぶ音がして、紙吹雪のように散った。これは、修復不可能だ。

 近くの席の子が、こちらをチラチラ気にしている。それからひそひそと話して、また見る。恥ずかしい。

「行こ」

 いきなり手を引っ張られて、教室を出た。前を歩く高嶺くんは、少し足早で怒っているように感じる。

 クラスメイトが騒ついて、廊下をのぞく気配がした。お構いなしで、角を曲がり階段を駆け降りていく。

 どう対処したら良いのか分からない空気から、連れ出してくれた。やっぱり、高嶺くんは王子さまのような人だ。


 図書室の鍵を開けて、貸し出し場の奥にある事務作業の机に、高嶺くんが弁当を置く。

「先生の許可は取ってあるから大丈夫だよ。ここなら、人の目も気にしなくていいから」

 小さくうなずいて、弁当袋を握りしめる湿った手を開いた。

 隣に座って食べていると、空間のせいか図書委員になったようで不思議な気持ちになった。本の匂いはどこか安心感があって、心を落ち着かせてくれる。

 そっか、高嶺くんの匂いに似ているんだ。
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