花姫コネクト
 誰かの何気ない一言で勇気がもらえたり、その逆で崖の下へ突き落とされたりもする。

「王子、良かったな。念願の花咲かせた感想は?」
「……枯らしたいです」

 いつもと変わらないはずの部室。あっけらかんとした表情の姫先輩に、小さく息を吐く。

 蕾が開いてから一週間。ずっと休んでいた部活へ顔を出した。
 あれほど気楽に接していたのに、今は目を見て話すことが出来ない。

「なんで?」

 伏し目がちな私を覗き込むように、姫先輩が顔を傾ける。視線を合わせないために、少し角度を変えて咳払いをした。

「これは何かの間違いなので」
「じゃあ、異常開花するほど王子の執念が勝ったってことだな」

 人の気も知らないで、ハハッとからかうような声を上げる。

 デリカシーのかけらもない文字をつらつらと並べて。この人で咲いたことが信じられなくなって来た。

 それともうひとつ。なぜ新聞部の部室に、彼女がいるのか。

 ちらりと横目で視線を向けると、河合さんとばっちり合う。気まずさのあまり無言で逸らして、嫌な感じになってしまった。

「ねえねえ、王子ちゃん……だっけ? 王子ちゃんって、響と仲良いの?」

 とうとつな質問に、思わず身構える。仲が良いかと聞かれると、どう答えたらいいのか分からない。

「えっと、それなりに……」

 歯切れの悪い言い方になった。普通に仲は良い方だと言ったら良かったのかな。

 隣で聞いていた姫先輩が、すかさず首を捻りながら「なんだそれ。俺嫌われてんなー」と笑う。

 違う、そうじゃない。河合さんの大きな瞳に見つめられると、本心を見抜かれそうで怖い。

 それに、何か圧を感じるというか。
 ずいっと前のめりになって、可愛らしい顔がアップになる。

「王子ちゃんとは仲良くなれそうな気がするの。これからよろしくね」

 ギュッと手を握られて、満面の笑みを向けられた。拒む隙もなく、愛想笑いを浮かべるしかない。

 この人が悪いわけではないけど、胸が苦しくて、不安で仕方ない。
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