花姫コネクト
「じゃあ、七月号は修学旅行と校外学習の記事にしましょう。あと、この前言ってたのも、二年生頼んだよ」

 乙谷部長が今後の予定を取り仕切るなか、姫先輩にべったりくっついている河合さん。

 どうして彼女が新聞部(ここ)に居座っているのか、距離が近すぎないか。そんなことばかりが頭を占めて内容が入ってこない。

「大路さん、聞いてた?」

 顔をのぞき込まれて、話が終わっていたことに気付く。他の部員は帰る準備を始めていて、乙谷部長が心配そうに口を開いた。

「しばらく休んでたし、大丈夫? さっきもずっとぼーっとしてたから。何かあった?」
「ううん、ごめんなさい」
「私たち、もう引退だから。次の部長は大路さんに任せたくて」
「ええ! そんな、無理です」

 出来っこない。ぶんぶんと首を振るけど、乙谷部長は眉を下げて、

「ほんとは無理に言いたくないんだけど、あの子たちに任せられないよ。誰かがやらなくちゃならないの。私に出来たんだから、大路さんなら出来るよ」

「……でも」
「困った時は、いつでも相談に乗るから。ねっ?」

 決まらないと、困るのは乙谷部長だ。あとニ週間もしたら三年生は部活へ来なくなる。

「……やってみます」
「ありがとう! 物語は、他の二年生と名無(ななし)くんにも手伝うように言っておくから」

 パンッと手を合わせて、乙谷部長は安心の顔をする。それより、気になる単語が宙を舞う。

「……物語?」

「生徒たちに興味を持ってもらえる工夫を何か出来ないかって、先生に言われて。さっき、校内新聞にちょっとした物語を掲載するって話したんだけど……」

 やっぱり聞いてなかった? と言いたげに、乙谷部長が苦笑する。

「バーカ。上の空になってっからだよ」

 こつんと突かれて、頭を押さえた。あきれたように、姫先輩がかばんを肩にかける。

 そのあとに河合さんがぴょこんとくっ付いて、胸のもやもやが広がっていく。
 ……人の気も知らないで。

「まあ、俺もフォローしてやらなくはない」
「……どっちですか」
「頼ればいいって言ってんの。ほら、帰るぞ」

 前と変わらない姫先輩に、花の香りが増す。違う視線が気にならなかったわけではないけど、斜め後ろを歩いてついて行く。
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