花姫コネクト
***

「……あの、やっぱり私帰ります」

 テーブルの上に広げられた教科書とノート。それから、お茶の入ったグラスのコップが三つ。

「待て、まだ解き終わってねーだろ。難しいからって逃げんな」

 立ち上がってすぐ、首根っこを掴まれて座らされる。さっきからこれの繰り返しで、もう三度目だ。

 このやり取りを、黙って目の前で見ている河合さん。無言の視線がびしびしと痛い。

 宿題を教えてほしいと河合さんが言い出して、なぜか私まで姫先輩の家に連れ込まれた。
 二人きりになって欲しくはないけど、この地獄絵図をどうしたらいいのか分からない。

「ちょっとー、響? 王子ちゃんがいる必要ある? 全然宿題が進まないんだけど」

 しびれを切らしたように、河合さんがぶうっと口をとがらせた。

 悔しいけど、可愛い人は何をしても可愛い。人間は不平等だと思いながら、仕方なくシャーペンを握ると、

「で、それいつ咲いたの?」

 耳元に広がる声に、思わず胸がドキッと鳴る。小さなテーブルだから承知の上だったけど、今のはあまりにも近すぎた。

 河合さんに聞こえないようにしたのだろうけど、じとっとこちらを見ている。

「……忘れました」

 ぼそっと言うと、また顔が近づいて。

「……誰?」

 誰とは、おそらく誰に反応して咲いたのかということで、すなわち好きな人を聞かれている。

「だから、異常開花だから。そんな人……いません」
「ふーん、あっやし」

 鼻で笑って、いかにも信じていない素振りをする。からかわれているのか、知りたくて聞かれているのか読めない。

 早く終わらせて、帰ろう。

 無言で問題を解き始めたら、余計に不審な目で見てくる。
 少し不貞腐(ふてくさ)れたような顔をして、さらに接近して肩が触れた。
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