花姫コネクト
「ねえ、さっきからこそこそ何話してるの? メルに聞かれちゃいけないことなの?」

 前のめりになって伸ばされた手。先輩との間へ割り込む教科書が、ぺちぺちと頬に当てられる。

 河合さんの視線も、触れる教科書もこの上なく冷ややかだ。

「別に、大したことじゃねーよ」

 向けられている教科書をさりげなく下ろして、姫先輩がよっと立ち上がる。

 ちょっとトイレと部屋を出て行く後ろ姿を、河合さんが不満そうに見ていた。

 二人きりになると、気まずい。うーんと背伸びをした河合さんのセーラー服が持ち上がって、ちらりとお腹が見えた。

 びっくりした。制服の下に、キャミソールとか来てないんだ。こっちが恥ずかしくなって下を向く。

 どこを見ていたらいいのか分からないし、なによりこの沈黙は息がつまる。

 意味もなくノートをめくっていると、すすっと河合さんが隣に来て。

「ねえねえ、王子ちゃん。面白いこと教えてあげよっか?」

 退屈を持て(あま)していた顔が、何か楽しい遊びでも見つけたみたいにパッと華やぐ。

「響の弱点知ってる?」
「……弱点……ですか? なんだろう」

 考えたこともなかった。頭はいい方だし、虫も平気そうだった。
 基本的には、何に対しても無関心。これといって、苦手なものは浮かばないけど……。

「響って、強がってるけど脇腹が弱いの。ちょっとくすぐるだけで笑いが止まらなくって。学校ではクールぶってるから、腹が立った時たまにやってやるの」

「……へえ」

 しっかりと反応が出来なくて、気の抜けた声が出た。

 とっくにへし折れている心では、平静を(よそお)うこともままならない。

「心許す関係だからこそ、なんだけどね。王子ちゃんは、触ったことある?」

「……いえ」

 優越(ゆうえつ)の浮かぶ目、得意げに上がった唇。分かっていて、わざと聞いている。
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