花姫コネクト
「あとね、意外と恥ずかしがり屋で可愛いとこあるんだぁ。あのキャラで赤くなったりするの。キスした時、とか」

「変な言い方すんな。いつの話してんだ」

 河合さんの頭が揺れる。戻って来た姫先輩が、ぽんっと押したから。
 頬が桜色に染まって、唇がツンととがる。

「だって、メルのファーストキス奪ったの響だもん」
「だから! あれは事故……」
「……お、お邪魔しました」

 机に手を付いて、いきおいでくしゃけたノートを抱えると、そのまま走り去る。

「えっ、おい」

 掴まれた腕を振り払って、振り向きもしないで家を出た。

 まだ明るさを残す空の下を、ひたすら駆ける。何も考えない。考えたら終わり。
 言い聞かせながら、頭を占めるのはさっきの会話。

 別に、くすぐってることが嫌なわけじゃない。ファーストキスだって、たぶん幼い頃の話だろう。そんなことは重要じゃなくて。

 ただ、二人の空気感に耐えられなかった。
 河合さんは、私の知らない先輩をいくつも知っていて、見えない積み重ねの繋がりがある。

「うっわぁっ!」

 急ぎすぎたのか、足がもつれて派手に転んだ。ひざがひりひりと痛む。
 ()りむいたところから、じわりと血が()れていた。

「……はは、ついてないなぁ」

 アスファルトに散らばったかばんの中身を拾い集める。
 横を通り過ぎていく自転車は、避けるだけでこちらへ見向きもしない。

 声をかけて欲しいわけではないけど、何台も続くと(むな)しくなってくる。

 ーーああ、なんかもう。


「……邪魔すぎでしょ、私」
< 86 / 133 >

この作品をシェア

pagetop