花姫コネクト
 翌日から、教室の空気が変わった。
 わざとらしくぶつかった肩。その拍子に床へ落ちた筆記用具とノート。

「あっ、ごめんねー。見えなかった」

 冷凍庫から取り出したような声は、しゃがむ私の横を通り過ぎる。

「次化学室だよ。早く行こー」

 さあちんに手を引かれて、おどおどしつつ彩葉ちゃんも教室を出て行く。

 黙って見ていたクラスメイトたちも、知らぬふりで動き始めた。自分には関係ないという顔をして。
 昨日の出来事が尾を引いたらしい。

 ーー仕方なくいる感じなら、別にいてもらわなくていいけど。

 さあちんの言い放った言葉に被せて、高嶺くんと教室を去ったのがいけなかったようだ。

「調子乗ってるから、しょうがないよね」

 一部の女子から、反感を買っていた。


 部屋の布団にくるまって、また朝を迎える。日を追うごとに起きる時間は遅くなって、とうとう出られなくなった。

「学校に連絡入れておいたから。今日はゆっくり休みなさいね」

 背を向けたまま返事をしないでいると、手が頭に乗っけられて。

「なるべく早めに帰るから。夜、おいしいもの食べよう」

 それだけ言って、お母さんは仕事へ向かった。細かいことまで話していないけど、おおよそ分かっているだろう。

 思うようにいかなくて、すべてどうでも良くなってくる。

 ベッドに横たわりながら、生徒手帳に挟んである水色の付せんをぼーっと眺めた。
 ペン字でも習っているのかと思わせる綺麗な字をなぞって、ばふんと手を放り投げる。

 高嶺くんのことだから、きっと心配してるだろうな。

 ごろんと寝返りを打って、スマホを見る。

「でもね、どうしたらいいのか答えが見つからないんだ」

 何度も着信のあった履歴を消して、まぶたをそっと閉じた。

 このままずっと、眠っていられたら楽なのに。
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