花姫コネクト
 キッチンで夕飯の支度(したく)をするおばあちゃんの横で、フライパンを覗き込む。

 菜の花とベーコンを炒める香ばしい香りが漂って来た。どこか安心する匂い。


「昔は恋慕草(れんぼそう)と言ってな、思春期になると芽が出て、恋をするとその想いの熱で花が咲くと言われとったんよ」

「思春期に?」

「そうだ。でも、今は生まれてすぐから芽を生やす。詳しい理由は解明(かいめい)されとらんが、自然が変化してきたのと同じで人の体も進化しとる」


 ダイニングテーブルに二人分の皿を並べながら、野菜炒めとコロッケを盛り付ける。

 恋咲き花が何のためにあるのか。そんな話題を持ちかけてから、語りたがりなおばあちゃんの口は止まることを知らない。


「これは、秘めたる心を写す鏡みたいなもの。感情にとらわれるのも、若い証拠。歳をとるごとに色は薄くなり消えて行く」

「おばあちゃんのも、自然になくなったの?」


 何もない殺風景な耳元を見て、ぽつりとつぶやいた。


「そうだ。今悩んどることも、長い月日で見たら意外と小さなことだったりするもんだ」


 うん、と相槌(あいづち)は打つけど、胸の中は晴れないまま。

 おばあちゃんは、ああ言っていたけど。私にとっては、目に見えない将来より重要なこと。


 みんなと同じように、早く恋をして花を咲かせたい。
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