花姫コネクト
「恋咲き花って、昔は一種の病だったって知ってる?」
「そう……なの? おばあちゃんは、思春期に咲くものだったって」
「たぶん、もっとずっと昔の話。前に本で読んだだけだから、詳しくは覚えてないけど」

 奇病は誰でもかかり得る病になって、人と共存する耐性を作り上げたんだって。
 語りかけるような口調は、胸にすとんと入り込む。

 恋の病から花が咲く。
 それが人間の感情を表すひとつになったのだとしたら、失くなってしまえばいいのに。

 外面(そとづら)ばかりに気を取られて、決めつけて、中身を見ようとしなくなるから。私も、その内のひとりだ。

「だったら、こんなもの必要ない細胞だってことね。みんな、花に一喜一憂(いっきいちゆう)されるけど……」

 乙谷部長の声が少し震えている。それでも、話し続けたいという意思がみられて、私は開きかけた口を閉じた。

「つらい恋をまわりに知られるのは、すごくつらい。そんな感情は、早く消してしまえばいいの。なかったことにしてしまえば、楽になれるの。そう思わない?」

 黙っていた高嶺くんが、小さくうなずいて柔らかに笑う。生チョコを串に刺しながら、

「たしかに。それもひとつの答えですね。でもーー」

 からん。グラスの氷と、瞳が揺れた。
 緑の後ろに白玉、桜の団子を繋げて私の皿に置く。


 ーー壊れてしまったなら、また新しく作り直したらいいんじゃないかな。
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