花姫コネクト
「あー、思い出したわ。これ」

 カバンから出てきたのは小さな紙袋で、中身は少女漫画。
 フリーズしている私の頭をこつんと突いて、さらに口調を荒げる。

「王子が勉強しろって渡したやつ。花咲いたんだから、もう必要ねーだろ」
「あっ、うん……そっか」

 いつでも会える気でいたから、貸していたことなんてすっかり忘れていた。

 二人で会う理由は、もうない。レッスンも、部活も、すべて終わってしまったから。
 紙袋を握る手に力がこもる。

 そういえば、ちゃんと花のこと聞いてなかった。青い花が咲いたのは、河合さんを好きだからなのか。

「あのっ……」
「あのさ……」

 言いかけた言葉は、姫先輩の声に重なって小さくなる。

 触れ合った瞳をすぐにそらして、先にどうぞとだけ言う。染まり上がる頬を隠すように、反対側を向いて。

「えっ、ああ……あのさ、また、じーちゃんに会ってくれねーかなと思って」

 とくん。ゆっくり顔を上げると、言いづらそうに口を隠している。こんな姫先輩は、初めてだ。

 胸の高鳴りを抑えつつ、そっと斜め上にある目を見ながら。

「……それは、その、また彼女のフリして……ってことですか?」
「……ダメ?」

 ふいに戻される視線に、心臓が跳ね上がった。

 ううん、と首を振る。
 サンキューと安心する顔を見て、同じように笑みが浮かぶ。

 私はズルい人間だ。
 河合さんに申し訳ないと思いながら、また姫先輩と会う口実が出来たことに胸を膨らませている。
< 93 / 133 >

この作品をシェア

pagetop