花姫コネクト
***

「これ、昨日作りすぎちゃって。妹が食べたいって言うから、たまたま……なんですけど。姫先輩、甘いの……。はあ、なんか違う」

 通学かばんをギュッと握りしめて、三年の玄関を行ったり来たりしてうろつく。

 昨日、お母さんに頼んで一緒にクッキーを焼いてもらった。誕生日だとか特別な意味はないけど、ただ渡したくなって。

 まばらに降りて来る人影を交わしながら、目立たないように壁の奥に身を潜める。
 チラチラと送られる視線が気まずい。早く来て。

 人が途切れた視界に、海のような青色が現れた。黒髪の隙間で揺れる花は、こちらを見ている気がした。

「……(せん)
「響ー! もう、待ってよ!」

 とっさに隠れた足は、前へ進むことが出来ない。

「ジャーン。これ、あげる」
「なに?」
「今日、家庭科で作ったの。響、マフィン好きでしょ?」
「ああ、ちょうど腹減ってた。サンキュー」
「また今度作ってあげる。何がいい……」

 ふいに呪文が溶けたように、動かなかった足が玄関から遠ざかって行く。

 クッキーの入ったかばんを揺さぶりながら、階段を駆け上がって、部室のドアを開けた。

 息を切らした私を見て、他の部員がどうしたという顔つきをする。

 ーー渡せなかった。
 手を突っ込んで、ラッピングの袋を掴むけど、引き出すことは出来ない。

「どうかしました?」
「……なんでもない」
「修学旅行、明日からですよね。写真って、乙谷さんに……」

 かばんの手元へ視線を落とす。さっき頑張って走りすぎたかな。それとも、もっと前からこうだったのか。

 やっと見つけた会う理由は、割れてバラバラに壊れていた。
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