花姫コネクト
 部活を終えて学校を出ると、ぽつぽつと雨が降り出していた。
 お母さんから傘を持って行きなさいと言われていたことを、今思い出した。

 玄関から少し手を出して、様子を確認する。ぱらぱらしてはいるけど、まだ大丈夫そう。お迎えの連絡をするまでではないかな。

 前を行く男子と同じように、小走りで門を飛び出た。

 少しずつ大きくなる粒が、髪や制服を濡らす。そういえば、以前にもこんなことがあった。あの時は姫先輩が傘に入れてくて……、私って学ばないなぁ。

 大通りへ出て、ひとつめの交差点を渡る頃には止んでいた。

 また降り出す前に、早く帰らないと。ズレ落ちるかばんをくっと持ち上げて、早歩きになる。

 明日の修学旅行は東京へ行くらしいけど、姫先輩の班はどうするのだろう。河合さんと一緒に行動するのかな。

 ーーあのキャラで赤くなったりするの。キスした時とか。

 嫌なセリフを思い出した。記憶から飛ばすように、頭をめいっぱい振る。

 どうせ幼い頃の話だろうと気にしてないつもりだったのに、やっぱり胸の中には残っていたらしい。

 もやもやさせながら病院前の公園を通り過ぎようとした時、急がせていた足が速度を下げた。

 小さな屋根小屋のベンチで佇んでいる男子生徒が見えて、それが姫先輩だと分かったから。

 気付いたら、自然と足が向かっていた。
 距離が近くなるにつれて、さらに足がゆっくりになる。後ろ姿からでも、元気がないのは見てとれた。

「……あ、王子? こんなとこで、なにしてんの?」

 足音に気付いたのか、ふとこちらを見上げた姫先輩が片側の口角を上げる。

 少しの違和感に襲われつつ、少し離れたところに腰を下ろした。

「姫先輩こそ、どうしたんですか? おじいさんの……お見舞い?」
「うーん、まあ、そんなとこ」

 適当なのは前からで、こうして目を見ないで話すこともあった。特に不思議なことじゃない。

 でも、いつもとは何か違う気がして。踏み込んではいけないかもと思いながら、口は開こうとする。
 先輩の手元に、河合さんからもらったマフィンが置かれていたから。ドキドキする心臓が鳴り止まない。
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