花姫コネクト
「この前貸してた漫画、全部読みました?」

「……うん」

「私的には、うい恋とか花メラあたりがお気に入りなんですけど、全部幼馴染系なんですよねー!」

「……そうだな」

「やっぱり、特別感ありますよね。幼馴染……って」


 あいまいに打たれる相づちは、そこで終わった。目の前の広場を眺めながら、先輩は上の空でいる。


 話が露骨(ろこつ)過ぎたかな。それも気付いていないか。まるで私の言葉は、初めから耳に届いていないみたいだから。

 何を考えているのか見えなくて、いつも以上に遠く感じる。

「明日、東京どこ行くんですか? 渋谷、原宿? もしかして、クロッフル食べに行ったりします?」

 なにか話題を作らないと。薄っすらと降りてくる黒いベールと、沈黙に押し潰されそうだ。

「ああ……班別? たぶん、国会議事堂とかじゃね?」
「へえ、先輩甘いの好きだから、てっきりデザート食べたりするのかなって」


 スカートの(すそ)をぐっと掴む。
 一度もこちらを見ないのは、私と話したくないから?

 退屈、迷惑、邪魔。浮かぶのはマイナスな単語ばかりでも、心の奥では違うと信じている自分がいる。

「そうだ! 今度、大路家特製クッキー焼いて来ますね! おじいさんのお見舞いにも、あ、先輩ってクッキー好き……」
「……いらない」
「……え?」
「食べねーから、必要ない」

 ガラスの砕け散る音がした。クッキーを乗せていた皿なのか、はたまた心臓の音なのか。

 河合さんのマフィンは受け取るのに、要らないって。それほどはっきり言われると、反応しようがない。

 さっと立ち上がった足が、少しふらついた。

 でも大丈夫。まだ自力で立っていられる。

「そんなの、いりませんよね。暗くなりそうだし、もう帰ろー」
「……そうじゃなくて」

 背を向けた手が、引き止められた。手首から伝わる感触に、息が苦しくなる。
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