花姫コネクト
「ごめん……、違う。違わないけど、違う」

 力ない手が震えていることに気付く。まだ傍にいて欲しいと、ダダをこねる子どもに言われているみたいだ。

「なにか……あったんですか? ずっと、様子が変だったから。先輩らしく……ないと言うか」

「俺らしいって、何?」

 掴まれたままの手首が、少しだけ締め付けられる。

「掛け合いとか、からかいもないし。話、全然聞いてないし。姫先輩が謝るなんてしおらしいというか、地球がひっくり返る勢いだし」


「俺って、どんだけひでー奴なの?」

 ほら、いつもなら「さりげなくディスるな」とかツッコむだろうに。調子が狂う。

 苦笑を浮かべる目が、この上なくつらそうだ。

「私じゃなにも出来ないし、言いたくなければいいですけど。これでも、心配してるんです」

 ぐっと引かれて、そのまま姫先輩に覆い被さる体勢になった。鎖骨にこつんと頭が当たって、心臓が跳ね上がる。

「ちょっ、なにふざけてーー」
「さっき……、じーちゃん死んだ」

 ドーーッと不穏が押し寄せて、肺が狭くなった。

 嬉しそうに笑いかけてくれるおじいさんが、脳裏に浮かぶ。

「……えっ?」

 おじいさんが、亡くなった?

 その文字がぐるぐると頭を巡るばかりで、上手く飲み込めない。

「顔、怖くて見れねーし。どうしていいか分かんなくてさ、親に任せて……病室から逃げた」

 うつむいたままの先輩が、つぶやくほどの声を出す。話すたびにかかる吐息と、じわりと染み込む何かで肩が熱くなる。

 泣いていると気付いたのは、鼻をすする音が混じり始めてからだった。
< 97 / 133 >

この作品をシェア

pagetop