のぼりを担いだ最強聖女はイケメン辺境伯に溺愛されています

第1話 婚約破棄

「ちょっと待ってください。どういうことですか?」

 王太子の私室に呼び出されたアニエスは、彼の言葉に耳を疑った。

「どうもこうもない。おまえには聖女としての力が足りないそうではないか。そのような者を妻に迎えて、王家が安泰と言えるか?」
「聖女としての力が……」
「ネリーのほうが、はるかに優れていると聞いた」
「ネリーですって?」
「よって、婚約は破棄する」
「そんな……」

 ずっと真面目に修行に取り組んできたのに、怠けてインチキばかりしているネリーより劣ると言われたことがショックだった。

 バシュラール王国では聖女として優れている者が王妃に迎えられる。
 遠い昔に受けた魔女の呪いの影響で、王になった者はすぐに体調をくずす。そのため、癒しの力のある聖女が一生そばにいる必要があるのだ。
 聖なる癒しの力はふつうに手をかざすだけでも発動するが、夜の褥でのあれこれには特に威力があるらしかった。
 そのため、最も優れた聖女が王妃に選ばれることになっている。

 王様が弱いと国はすぐに滅んでしまう。聖女の責任は重大なのだ。

 子爵家の生まれながら、六歳の時にその才能を見出されて王宮に修行に入ったアニエスは、努力を続けて誰よりも優秀な癒しの聖女になった。
 それが認められたから、十八歳の誕生日を前に王太子の婚約者に選ばれたのに、たった一ヶ月でクビ、もとい婚約破棄を言い渡されるなんて……。

 ショックだ。
 ショックすぎる。

 しばし呆然となったアニエスだが、ふとあることに気づいた。

「婚約破棄ということは、もう私はお払い箱ということですね」
「そうだ」
「ということは、ここを出て好きなところへ行っていいと……」

 王太子エドモンは少し考えてから、頷いた。

「そういうことになるな」

「わかりました。婚約破棄の件、しかと承ります」
「え、いいのか?」
「今、そう言ったのは殿下です」
「そ、そうだな」

 アニエスは立ち上がり、お辞儀をした。

「これまでありがとうございました」
「アニエス……」
「ごきげんよう、殿下。どうぞお達者で」
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