のぼりを担いだ最強聖女はイケメン辺境伯に溺愛されています
 フォートレルの町は大きかった。
 周囲を壁で囲まれた町で、昼間は誰でも通れるけれど、夜になると閉まる門が壁のあちこちに設けられていた。

 大通りを歩いていくと、正面にお城が見えてきた。
 なんとなく王都と造りが似ている。
 規模も同じくらい。街並みも立派で、これまで通ってきたほかの十二の町とは全然違った。

 まっすぐお城に向かって歩く。
 お城に置いてもらえるかどうかで、この先の身の振り方が変わってくるので、街での施術は後回しだ。

 城門には見張りの兵士が二人立っていた。
 門番というよりも、兵士って感じ。
 このへんは王都と全然違う。フォール城に当たる王宮を守っているのは、見た目は綺麗だけど、へにゃっとした感じの近衛兵で、飾りのようにたくさん立っていた。
 ほかの聖女たちはきゃあきゃあ言ってたけど、アニエスから見るとイマイチだった。

 王太子のエドモンも顔は綺麗だったけど、そんなに好きではなかったな、と思う。
 聖女としてトップに立ちたかっただけで、婚約破棄については、もう何とも思っていなかった。 

 いかつい兵士の前に立って、アニエスはお辞儀をした。

「こんにちは」
「はい、こんにちは」
「何の用だい、お嬢ちゃん」

 わりと緩い感じの兵士がにやにや笑いながら聞いてくる。

「トレスプーシュ辺境伯に会いに来ました」
「へえ。で、お嬢ちゃんは何者だい?」
「アニエス・ダルレ。聖女です」

 いかつい二人の兵士は顔を見合わせた。一人が肩をすくめる。
 また、偽物か、ともう一人の兵士が小声で呟いた。

「悪いね。聖女は、いらないんだ」
「でも、ここには怪我人がたくさんいるでしょ?」
「まあ、軍隊があるからね」
「その人たちの治癒は誰が行ってるんですか?」

 医者と看護師がいるのだと兵士は言った。
 アニエスは向かって右側に立つ兵士の右膝を見た。

「でも、あなたの膝はまだ痛むんじゃないの?」

 兵士は目を見開いた。左側の兵士も、びっくりした顔でアニエスを見ている。

「ちょっと失礼」

 アニエスはしゃがみこんで、兵士の右膝に手をかざした。
 傷口はふさがっても、痛みが残る傷がある。我慢すればふつうに生活できるけど、いつも痛くて膝を庇っているはずだ。

 アニエスが施術を終えると、兵士はさらに大きく目を見開いて、アニエスに聞いた。

「何をしたんだ」
「治したの。私、聖女だから」
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