のぼりを担いだ最強聖女はイケメン辺境伯に溺愛されています
 女神は聖女たちに優しかった。
 けれど、あの言葉を聞かせる時だけは、全く違った。だから、みんな気のせいだと思うことにした。
 なかったことにしてしまったのだ。

「魔女を裏切った王に、呪いから逃れて生き延びたいなら、毎日千段の石段を登って、自分に会いに来るようと魔女は求めたのではないでしょうか。泉の水に癒しの力を宿して、それを汲むことで病や怪我を浄化できるようにして……」

 泉の水には本物の癒しの力が宿っている。
 だからこそ、真面目に修行した聖女にはその力が蓄えられていった。

 聖女というのは、自分の中にある癒しの力を人のために使える才能がある者のことだ。
 遠い昔の王妃の中に聖女がいて、たまたま王の代わりに泉に登って、泉の力を授かってきた。そして、王を癒した。
 それが何度か続くうちに、王は自分の代わりに聖女に石段を登らせることを思いついた。

 それが、カサンドルの仮設だった。

「それが本当なら、その王はクソだな」
「クソです。あの王家の者はクソ揃いです」

 呪われて当然なのだとカサンドルは冷たく言い放つ。

「いまだに、せっかく修行したドゥニーズや私やアニエスを退けて、ボンキュッボンを后に迎えてしまうようなクソ揃いなのです」

 知的な目の奥にかすな怒りの炎が燃えていた。

「それでも、王が斃れて国が失われれば、多くの民が行き場を失くして彷徨うことになります。そこにいるアニエスも、閣下の姉君のソフィ様も、その苦しさはよく知っているはずです」

 カサンドルもきっと同じだったのだ。アニエスを見つめるベルナールに向かって、静かに続ける。

「安心できる居場所があるかないかは、幸福に生きられるかどうかに大きく関係します。だから、クソでもうんこでも、王にはいてもらわねばなりません」

 クソとうんこは同じでしたねと生真面目な聖女は自分の発言を補った。

「ともかく、これが私の仮説でしたが、それが正しいかどうかを確かめる方法がありませんでした。でも、今回ベレニス様が私たちを集めてくださったことで、神様のあの言葉が聞き違いではなかったことがわかりました。四人が全員、聞いているのですから、これを王に伝えないわけにはいきません」

 ベルナールは聞いた。

「泉の神様は、いったいどんな言葉をあなたやアニエスに伝えたのだ」

 アニエスとカサンドルは声を揃えて、神様の言葉を真似た。

「「自分で来いや、ゴルァ」」

 非常にドスのきいたいい声だった。
< 47 / 59 >

この作品をシェア

pagetop