のぼりを担いだ最強聖女はイケメン辺境伯に溺愛されています
 ものものしく行き来したエドモンたちやベレニス一行の動きから、バシュラール王国に何らかの変事ありと判断したムンドバリが、沈黙を破って国境を攻撃してきたのだ。

「よし。すぐに戻る」

 ベルナールは腰を上げた。
 だが、ポールは、「アンリ卿から、帰還は無用とのことです」と告げた。

「これは単なる報告です。閣下は、滞りなくダレル子爵を訪問してくださいとのことです」

 戦況は著しく有利。
 国境を突破される憂いは一切なしとアンリ・バルゲリーの書簡は告げていた。
 一度、登場したきり作者に存在を忘れられていたバルゲリー少将が、出番を欲したものと思われる。
 いずれにしても、このまま進んで問題なさそうだった。

 しばし思案したベルナールは、兵士たちに命令した。

「ここから先は、俺とアニエスだけで行ってくる。何人かは残って、姉上を護衛しながらフォールに戻ってくれ。ほかの者は、ポールと一緒に戻ってアンリの下に着いてくれ」

 兵士たちはにやりと笑った。
 視察の時でさえ、馬に乗って一人で出かけていくベルナールだ。
 馬車の隊列を組んで、ちんたら進むのは性に合わないのだろうと考えた。

「了解です」
「閣下は、ちゃちゃっと、嬢ちゃんの親御さんへの挨拶とやらを済ませてきてください」
「戻る頃にはムンドバリのムの字もない状態にしときます」

 こうして、アニエスは再びベルナールの馬に乗って旅をすることになった。
 どのみちもう半分は進んだ。
 馬車より馬のほうが速い。あと二日もあれば王都に着くだろう。

「アニエス、せっかく旅を楽しんでいたのに、すまないな」
「閣下と馬で行くのも好きです。みんなもああ言ってくれてますし、ちゃちゃっと済ませて早くフォールに戻りましょう」
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