のぼりを担いだ最強聖女はイケメン辺境伯に溺愛されています
 それからベルナールは小さくまとめた旅の荷物の中から、革の袋を二つ取り出しテーブルの上に置いた。
 紐を解くと、中から金貨が現れる。かなりの枚数だ。

 父が目を輝かせて、革袋に手を伸ばした。
 ベルナールは、サッと革袋を引いて、父の手から遠ざけた。

「これが何だか、わからないだろうな」

 口調がいつものベルナールに戻っている。

「あんたたちの話を聞いて、俺は、アニエスがフォールに来た理由がわかった。フォールに来てくれたことには感謝するが、あんたたちがアニエスにしたことには、ちょっとした憤りを覚える」
「わ、我々が、アニエスにしたこと?」
「むしろ、しなかったことか」

 親としての愛情を十分に与えなかった。そうベルナールは言った。

「幼い頃に修行に出して、ずっと会っていなかったのは知っている。急に帰ってきて戸惑ったのもわかる。だが、ここはアニエスにとって、唯一の家だろう。なぜ、帰ってすぐに旅に出なければならないんだ」
「あ、アニエスは、自分から……」
「あんたらが、安心してここにいていいと言わなかったからじゃないのか。仮にもアニエスの生みの親だから、あまりひどいことを言うつもりはないが、あんたらは自分のことしか考えてない。少しもアニエスを大事にしていない。さっきからのやり取りで、俺にはそれがよくわかった」

 王太子を平気で蹴る男である。アニエスの親ということで、これでも最大限のオブラートに包んでしゃべっている。
 そうでなければ、「クソ野郎」の一言で全てだったはずだ。

「これは、アニエスが稼いだ金の一部だ。わずかな金しか持たずに家を出され、聖女として施術をしながら旅を続け、フォールに着いてからもたくさんの患者を癒してきた。初めは銅貨一枚、ニッケル貨数枚で施術を始め、今ではこの袋にいっぱいの金貨を十二も貯めてある」

「そんなに……?」

 呟いたのは、アニエスだ。
 衣食住が安定したため金のことはすっかり忘れていたが、聖女として採用された際に、何か契約を交わしたのは覚えている。施術で得た収入の何割がアニエスの取り分になるとか、そんな内容だった。

「なんで金貨を持ってきたんですか?」
「王都には安全な銀行がある」

 フォールに置いておいても貯まる一方で使い切れないだろうから、アニエスがそれでよければ、一部をそこに預けておけばいいと思ったのだとベルナールは言った。
 たぶん、厳密にはこの金貨はまだベルナールのものなのだ。預ける時にアニエスの名義にするということだろう。

「せっかくだから、王都で何か好きなものを買ってもいいしな。もっとも、欲しいものがあったら、俺がなんでも買ってやるが」

 二人の会話を聞いていた両親が、物欲しそうな目でアニエスを伺い見たが、ベルナールがピシャリと言った。

「自分で稼げ。援助はしない」
 
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