のぼりを担いだ最強聖女はイケメン辺境伯に溺愛されています
第33話 ネリーとエドモン
アニエスとベルナールが王都を発った頃、王宮の一画にある聖女養成施設では、泉への石段を登る人のまばらな列を見ることができた。
その中には国王アンセルムと王后セリーヌ、そして王太子のエドモンとその婚約者ネリーの姿もあった。
高齢を理由に南の大聖女を引退したドゥニーズは、王宮に住んでベレニスを補佐することになった。
だが、アニエスとカサンドルという若手の聖女二人は辺境伯側についている。そのことに危機感を持ったアンセルムは、聖女の養成に力を貸してくれるよう正式にベレニスに頼んだ。
神官長ダニエルと同等の権限を与えられたベレニスは、それまでおざなりにされてきた修行の監督を強化した。
石段のてっぺんにある祠を改築して、ドゥニーズと彼女を世話する聖女たちの住まいとした。
ドゥニーズの世話係となった聖女たちは、嫌でも石段を上り下りしなければ暮らせない。ほかの聖女たちも、泉の水を汲む時にドゥニーズに会って顔と名前を確認されるようになり、ズルはできなくなった。
国王夫妻とエドモンとネリーもズルができない。
アンセルムはほかの三人の冷たい視線を浴びながら、荒い息を吐いて石段を登った。
「子どもの頃から毎日登ってた私たちには、それほど苦にはならないが、大人になってから千段の石段を登るのはキツいだろうね」
ヒヒヒと意地悪く笑うドゥニーズの顔は聖女というより魔女のようだ。
誰も見ていなくてもズルなどしないのが本物の聖女だが、いやいやながらでも修行を続けることで、聖女たちのレベルは上がっていった。
例年の倍以上の脱落者が出たが、残った聖女の質は確実によくなっていった。
実を言うと、まだ妃になっていないことを理由にネリーは逃げるのではないかと、ベレニスとドゥニーズは疑っていた。
しかし、ネリーはエドモンと一緒にぜえぜえ言いながら、毎日石段を登っている。
エドモンも顔だけはいいので、案外、本当に愛情を持っているのかもしれないと二人は考えた。
しかし、ネリーにはネリーの思惑があった。
毎日、石段を登っていると、泉の神様が何かいいことを言ってくれることがある。
ある日、ネリーは聞いたのだ。
――千日、泉に通ったら、呪いを解いてやってもいいよ。
千日。
ざっと計算して二年と九ヶ月。
それだけ頑張れば呪いが解けて、こんな苦労をしなくてよくなる。
せっかく手に入れた王太子妃の座、呪いが解けた後のそれを、ほかの誰かに渡すのは悔しい。
今、逃げるか、それとも千日頑張るかを秤にかけて、ネリーは後者を選んだ。
そんなこととはつゆ知らず、ベレニスたちと同じように、ネリーは逃げるのではないかと心配していたエドモンは、自分と一緒に黙って石段を登るネリーを見て、それまでとは違う種類の愛情を覚えるようになった。
「ネリー、愛している」
「殿下……」
「早く、結婚式を挙げよう」
石段のまわりにお花畑が広がる。めでたしめでたしと幸せになるかと思えたが、世の中はそんなに甘くない。
本当の幸せを手に入れるには、まだまだ努力が必要だった。
その中には国王アンセルムと王后セリーヌ、そして王太子のエドモンとその婚約者ネリーの姿もあった。
高齢を理由に南の大聖女を引退したドゥニーズは、王宮に住んでベレニスを補佐することになった。
だが、アニエスとカサンドルという若手の聖女二人は辺境伯側についている。そのことに危機感を持ったアンセルムは、聖女の養成に力を貸してくれるよう正式にベレニスに頼んだ。
神官長ダニエルと同等の権限を与えられたベレニスは、それまでおざなりにされてきた修行の監督を強化した。
石段のてっぺんにある祠を改築して、ドゥニーズと彼女を世話する聖女たちの住まいとした。
ドゥニーズの世話係となった聖女たちは、嫌でも石段を上り下りしなければ暮らせない。ほかの聖女たちも、泉の水を汲む時にドゥニーズに会って顔と名前を確認されるようになり、ズルはできなくなった。
国王夫妻とエドモンとネリーもズルができない。
アンセルムはほかの三人の冷たい視線を浴びながら、荒い息を吐いて石段を登った。
「子どもの頃から毎日登ってた私たちには、それほど苦にはならないが、大人になってから千段の石段を登るのはキツいだろうね」
ヒヒヒと意地悪く笑うドゥニーズの顔は聖女というより魔女のようだ。
誰も見ていなくてもズルなどしないのが本物の聖女だが、いやいやながらでも修行を続けることで、聖女たちのレベルは上がっていった。
例年の倍以上の脱落者が出たが、残った聖女の質は確実によくなっていった。
実を言うと、まだ妃になっていないことを理由にネリーは逃げるのではないかと、ベレニスとドゥニーズは疑っていた。
しかし、ネリーはエドモンと一緒にぜえぜえ言いながら、毎日石段を登っている。
エドモンも顔だけはいいので、案外、本当に愛情を持っているのかもしれないと二人は考えた。
しかし、ネリーにはネリーの思惑があった。
毎日、石段を登っていると、泉の神様が何かいいことを言ってくれることがある。
ある日、ネリーは聞いたのだ。
――千日、泉に通ったら、呪いを解いてやってもいいよ。
千日。
ざっと計算して二年と九ヶ月。
それだけ頑張れば呪いが解けて、こんな苦労をしなくてよくなる。
せっかく手に入れた王太子妃の座、呪いが解けた後のそれを、ほかの誰かに渡すのは悔しい。
今、逃げるか、それとも千日頑張るかを秤にかけて、ネリーは後者を選んだ。
そんなこととはつゆ知らず、ベレニスたちと同じように、ネリーは逃げるのではないかと心配していたエドモンは、自分と一緒に黙って石段を登るネリーを見て、それまでとは違う種類の愛情を覚えるようになった。
「ネリー、愛している」
「殿下……」
「早く、結婚式を挙げよう」
石段のまわりにお花畑が広がる。めでたしめでたしと幸せになるかと思えたが、世の中はそんなに甘くない。
本当の幸せを手に入れるには、まだまだ努力が必要だった。