身代わり政略結婚～次期頭取は激しい独占欲を滲ませる～

「先日、紀成さんのお勤め先を伺ったときに『もしかしたらお会いするかも』って思ってたんです」
「僕も。何度かジョインコネクトには訪問させていただいていましたので、いつかは会えるかも、と。まさか今日になるとは想像しませんでしたけど」

　剛士さんは私の話に同調して、爽やかに歯を見せる。

　この人、気さくで話しやすいなあ。営業にすごく向いていそう。

　彼もまた、家柄的にゆくゆくは企業を背負って立つのだろうけれど、いい意味でそういう雰囲気を感じさせないというか。

　そろそろエレベーターホールに到着しそうなとき、剛士さんに言われる。

「時雨さん、もし今お時間あるなら、少しいいですか？」

　私は思わず足を止め、きょとんとした。

「ええ。休憩時間ですので大丈夫ですけど」

　なにか仕事上の話でもあるのかな。それとも、成さんに関わる話とか？
　どちらにせよ、オフィス内では落ち着かないかもしれない。

「じゃあ、外に出ます？　近くでよければ私は平気ですけれど」
「ありがとうございます」

　私が提案すると、剛士さんは屈託なく破顔した。