身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
「ところが時雨ときたら、指示された当たり障りない仕事を終わらせて、無理やり仕事を奪っていったよなあ。しかも、力仕事とか雑用とかだけ」
「だって、私のできる範囲がそれくらいしか」
「身なりだって華美なもんじゃなくてさ。俺らの『社長令嬢』っていう固定観念を覆されたよ。なんてったって、中身が体育会系」
「え! 私そんなに暑苦しくないですよね?」
「上下関係は絶対で、真面目で丁寧だって言ってんの。時雨ならほかの企業でだってうまくやっていけるだろうに」
そういうふうに評価してもらえて、本当にうれしい。この四年、頑張ってきてよかったって思う。
「たまたま私の希望も出版業界だったので……。父の意向を断る大きな理由もなかったんですよ。それに、ジョインコネクトは学生時代からいろんなアプリでお世話になっていたし、親近感もあったので」
就職時期には父と何度となく話し合った。
父はどちらかというと心配性で、私が父の勧めの女子短大ではなく共学の四大に進学をしたいといった頃から、いろいろと意見を交わしてきた。
結果的に、進学先は好きなところを許す代わりに就職先は時雨グループ内で、という父の条件をのむことで丸く収まったのだ。
私としては、ほかの企業も興味を引かれたのも事実だが、時雨グループが嫌なわけではなかったから父の希望を汲んだ。
ただ、私が『時雨』だから、就職して円満スタートにはならないだろうと覚悟を決めていたおかげで頑張れたのもある。
そうして、今は仲間のみんなに認められて居心地よく仕事できているのだから、十分だ。
オフィスに着いて、エレベーターに乗った。
私が率先してボタン操作をし、扉を閉めると友廣さんがつぶやく。
「本人も全然社長令嬢っぽくなくて話しやすいしな。エレベーターも率先して乗ってくれるし」
「それ、褒めてます? エレベーターのボタンくらい、どんなご令嬢でも押せますよ、きっと」
友廣さんはめずらしく「ははっ」と声を上げて笑う。
「もちろん。最大級の賛辞だ」
先に開発部の階に着き、私はエレベーターに残る。彼はエレベーターから降りて、振り返りざまに言った。
「じゃ、今日の打ち合わせ内容は今週中にまとめておいて」
「わかりました」
友廣さんは一度背を向けたのに、また私を見るものだからなにかしたかと構える。
「な、なにか?」
「いや。時雨は必ず約束を守るからな。安心して自分の仕事に専念できるなあって」
彼は普段、ストレートに誰かを褒めたりしない。なのに、さっきだけじゃ足らず、さらにうれしい言葉を口にしてくれる。
私はうっかり感極まって、目頭が熱くなってしまった。
「期待を裏切らないよう、これからも頑張ります」
九十度にお辞儀をして涙目をごまかすと、友廣さんは「おう」とひとこと残して去っていった。
「だって、私のできる範囲がそれくらいしか」
「身なりだって華美なもんじゃなくてさ。俺らの『社長令嬢』っていう固定観念を覆されたよ。なんてったって、中身が体育会系」
「え! 私そんなに暑苦しくないですよね?」
「上下関係は絶対で、真面目で丁寧だって言ってんの。時雨ならほかの企業でだってうまくやっていけるだろうに」
そういうふうに評価してもらえて、本当にうれしい。この四年、頑張ってきてよかったって思う。
「たまたま私の希望も出版業界だったので……。父の意向を断る大きな理由もなかったんですよ。それに、ジョインコネクトは学生時代からいろんなアプリでお世話になっていたし、親近感もあったので」
就職時期には父と何度となく話し合った。
父はどちらかというと心配性で、私が父の勧めの女子短大ではなく共学の四大に進学をしたいといった頃から、いろいろと意見を交わしてきた。
結果的に、進学先は好きなところを許す代わりに就職先は時雨グループ内で、という父の条件をのむことで丸く収まったのだ。
私としては、ほかの企業も興味を引かれたのも事実だが、時雨グループが嫌なわけではなかったから父の希望を汲んだ。
ただ、私が『時雨』だから、就職して円満スタートにはならないだろうと覚悟を決めていたおかげで頑張れたのもある。
そうして、今は仲間のみんなに認められて居心地よく仕事できているのだから、十分だ。
オフィスに着いて、エレベーターに乗った。
私が率先してボタン操作をし、扉を閉めると友廣さんがつぶやく。
「本人も全然社長令嬢っぽくなくて話しやすいしな。エレベーターも率先して乗ってくれるし」
「それ、褒めてます? エレベーターのボタンくらい、どんなご令嬢でも押せますよ、きっと」
友廣さんはめずらしく「ははっ」と声を上げて笑う。
「もちろん。最大級の賛辞だ」
先に開発部の階に着き、私はエレベーターに残る。彼はエレベーターから降りて、振り返りざまに言った。
「じゃ、今日の打ち合わせ内容は今週中にまとめておいて」
「わかりました」
友廣さんは一度背を向けたのに、また私を見るものだからなにかしたかと構える。
「な、なにか?」
「いや。時雨は必ず約束を守るからな。安心して自分の仕事に専念できるなあって」
彼は普段、ストレートに誰かを褒めたりしない。なのに、さっきだけじゃ足らず、さらにうれしい言葉を口にしてくれる。
私はうっかり感極まって、目頭が熱くなってしまった。
「期待を裏切らないよう、これからも頑張ります」
九十度にお辞儀をして涙目をごまかすと、友廣さんは「おう」とひとこと残して去っていった。