身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
「話……って?」

 私が不思議に思って尋ねると、成さんは私の両肩に手を置いて、椅子に座らせた。
 私は成さんを見上げる。

「梓って、仕事でこのあたり時々来てただろう?」
「は、はい。今でもたまに……」
「そう。俺が初めて梓を見かけたのはここへ来る途中だった。上司らしき人に『時雨』って呼ばれてるのをたまたま聞いて、つい振り返った」
「えっ!」
「その時にはもちろん時雨家との縁談の話は知っていたからね。あまり多くない印象の名字だし、もしかして……って」

 私は唖然として成さんを見つめる。
 もちろん私はまったく気付かなかった。

「だけど、釣書に添えられていた写真の人とはまったく違っていたから人違いだなって思って」

 成さんはおもむろにポケットからマンションのキーを出した。
 お揃いのキーホルダーを揺らして続ける。

「それから数日後、また梓を見かけて。明らかに外回り中だったんだけど、このキャラクターが目に入って一瞬意識を奪われてた」
「え……? いつだろう……」

 正直、もちマロを見ると見境なくなってしまうのは自覚してるから、どの時のことかピンとこない。

 成さんは余程おかしかったのか、くすくすと思い出し笑いをしている。
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