身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
 自分の部署に着いてすぐ、時計を見た。ちょうど昼だ。
 このまま休憩にして、資料作成は午後から始めよう。

 私はお弁当を取り出してデスクに広げた。中には今朝も食べたからあげが入っている。
 小声で「いただきます」と手を合わせてから、ご飯を頬張った。

 母はときどきお弁当を作ってくれる。父が外食の予定がないときはお弁当を持っていくので、そのときのついでだ。
 そのほかの日は、私が料理の練習を兼ねて自分で作ったり、早起きが間に合わなかった日にはコンビニで済ませたりもしばしば。

 母のお弁当を平らげ、お茶を飲みつつ、なにげなくスマホに目をやった。
 つっと指を滑らせ、しつこくもまた確認をしてしまう。

 成さんの名前をずっと見ていたら、得体の知れない動悸がしてきたため、適当に操作して画面を変えた。すると、着信履歴の画面に切り替わった。

 そういえば、昨日の着信……これ、誰なんだろう。

 バッグの中で振動していた着信は【非通知設定】となっていて相手は不明。
 はっきりわからないのはモヤモヤしてしまうものの、確かめようもない。

 私はあきらめてスマホをスリープ状態に戻し、午後の仕事の準備に取りかかった。

 無事に一日終わり、帰宅したのは夜八時頃。
 食事をし、入浴を終えて部屋でひと息ついていたときに、スマホが鳴った。着信主を見て驚く。

「えっ!」

 成さんからだ。

 あたふたして咄嗟にベッドから立ち上がり、部屋をうろうろと歩き回る。
 動揺をなんとか落ち着けてから、勇気を出して応答アイコンに指を伸ばした。

「もしもし」

 震えそうな声をなんとか持ち直し、問いかける。
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