身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
 翌日。昼過ぎに成さんがやってきた。
 私は少しの荷物とともに、彼の高そうな車に乗って実家を後にした。

 まず驚かされたのは、どこかの有名ラグジュアリーホテル並みに、スタイリッシュなマンションの外観。
 さらに、ロビーには二十四時間体制でコンシェルジュがいると説明されて感嘆の息を漏らした。

 こういった設備やセキュリティが整ったマンションがあるのは知ってはいたものの、目の当たりにしたのは初めてだったから。

 我が家も友恵ちゃんのところもマンションには縁はなく、一戸建て。タワーマンションには縁がなかったのだ。

 最上階の部屋に着いたら、間取りをはじめ、キッチンやバスルームを案内してくれた。
 ほかにも、彼の書斎やベッドルームなど。

 私が持ってきた荷物は、ベッドルームの隣室に置かれた。

「わ……。ここはなにもないんですね」

 八畳ほどの広い部屋は掃除は行き届いているものの、がらんとしていた。

「そう。部屋はあるって言っただろう? ここ好きに使っていいから」
「ありがとうございます」

 荷物を置いた後は、整然としたリビングに足を踏み入れた。

 二十畳はありそうな空間には、テレビとソファ、サイドテーブルと、ダイニングテーブルというシンプルさ。

「コーヒーでも飲む?」
「あ、私が淹れます」

 キッチンに向かう成さんの後を追い、コーヒーマシンを見て手が止まる。

「あの……これ、どうやって使うんですか?」

 最新型家電ってやつなのか、見た目はコンパクトでボタンがたくさんある。ちょっとすぐには豆を入れる方法もわからない。

「ああ。まずこのボタンを押して」

 戸惑っていたら、成さんが操作をしてくれた。すると、機械から豆を挽く音が聞こえてくる。

「すみません。家やオフィスにあるものと全然違ったから」

 興味津々で機械に顔を近づける。
 右上に見つけたロゴは、確かコーヒーマシンで有名なメーカーだったような。

「これはエスプレッソも淹れられるから気に入ってるんだ。ミルクスチームできるからカフェオレも飲めるよ」
「カフェオレ? わあ。私、好きなんです!」

 思わず喜んで顔を戻すと、カップを用意した成さんが間近にいて驚いた。
 あまりの近さにどぎまぎする。

「じゃあ牛乳も用意しよう」

 冷蔵庫のほうへ行った成さんの横顔を盗み見て、胸に手を当てる。

 いや。今のは不可抗力。ふいうちで至近距離にいたせいで、動揺してるだけだから。

 言い訳がましく心の中で言葉を並べているうちに、成さんは牛乳を持って戻ってきた。
 その後も私にレクチャーしながら、カフェオレを用意してくれた。

「どうぞ」

 カップを手渡され、自然と成さんの手元に目がいく。
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