身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
 さっきから思っていた。

 成さんの手、すごく綺麗。指はすらりと長いし、大きいし。
 男の人の手って、こんなにドキドキするものだっけ?

 カップいっぱいに入ったスチームミルクを零さないようダイニングテーブルに運ぶ。
 時間差で成さんが自分のコーヒーを持って向かいに座った。

「すみません。結局淹れてもらっちゃって」
「いや。いつもしてることだから」

 ブラックコーヒーを口に含む姿がよく似合う。
 つい見入って危うく目が合いそうになり、ごまかす流れでカフェオレを飲んだ。

「わ、美味しい」

 カフェで飲むカフェオレと大差ない味に驚くと、成さんはふわりと微笑んだ。

「よかった」

 彼の笑顔は毎回私をドキッとさせる。
 私は途端に落ち着かなくなり、頻りにカップを持っては置いてを繰り返した。

 仕方ないよね。だって、大して知りもしない人の家に転がり込んでるんだもの。緊張して当然だ。

 ときどき正面に座る成さんを窺う。

 睫毛を伏せてコーヒーカップを持つ様も絵になる。
 なんなら背景にアメリカの街並みが見えてきそう。カフェのオープンテラスで英字新聞読みながらとか……似合いすぎる。

 カップをテーブルに戻した成さんが、おもむろに笑った。
 てっきり私がなにかしたかと思って背筋を伸ばす。

「実は今日、迎えに行くまで不安だったんだ。君が逃げてしまったかもと思って」
「えっ」
「昨日の別れ際に明確な返事はもらってなかったから」

 苦笑交じりに言われ、目を点にした。

 昨日の雰囲気と全然違う。
 あのときは、私に有無を言わせぬほどで強引だったのに。

「そんなの……私の両親に報告した時点で逃げようがなかったっていうか。成さんもわかっていて外堀を埋めたのでは?」
「そう? いくら俺が周りを固めたって、行動に移そうと思えばいくらでもできるだろう。友恵さんのように」

 突然、友恵ちゃんの名前が出てきて言葉を失った。

 私のところに彼女から連絡が来たのは知らないはず。

 そもそも、成さんは友恵ちゃんをどう思ってるんだろう。
 もしかして、お見合い直前になって振り回した時雨家に立腹していて、代償に私を利用して報復とか……いや、まさかね。
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