身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
「なるほど。ケースバイケースだけど、さすがに女の子に働かせて俺は休んでるってのはないでしょ」
「そ、そうですね」

 彼はそれを行動で表すかのごとく、手際よく電子レンジもセットする。

 こういう行動は普段から心がけていないと、咄嗟の場面で動けないんじゃないかな。
 成さんは今だけでなく、買い物中も店員任せにしないで、進んで商品を車に運んだり、自然だった。

 遡れば、デート中もお見合いのときもさりげなく手を貸してくれたりして。
 肩書きが立派だと高飛車な人も多い中、彼は違うみたい。

「そっちこそ。社長令嬢のわりにそれっぽくないよね。さっきも全然贅沢しないし。ここに来るときの荷物だって、すごく少なくて驚いた」
「あ~……職場でも『ぽくない』ってよく言われました。父もあまり貪欲な性格ではないですし、社長といっても雇われ社長のようなものなので……。特段贅沢もせず暮らしてきたからでしょうか……あっ、私はそんな父が好きなんですけどね!」

 友恵ちゃんは、財閥の令嬢って言葉がしっくりくる。

 私はもちろん父や母のおかげで恵まれた人生を歩んでいると思ってるけど、令嬢って言葉は当てはまらないんだろうなって客観的に思ってる。
 しかし、私は今の私で満足してる。

「うん。いい雰囲気のお父さんだよね。俺も好きだよ」
「……ありがとうございます」

 危ない危ない。さわやかに白い歯を見せて『好き』って言われたら、対象が自分じゃないってわかっててもドキッとする。

 態勢を整え直そうと成さんに背を向け、スーパーで買ってきた食材を袋から出していたら背中越しに言われる。

「もちろん、梓さんもね」

 私は思わず振り返り、見開いた目に彼を映し出すだけでなにも返せなかった。

 ついでに言っただけだ。

 軽く受け流さなきゃ。いちいち翻弄されてどうするの。ここへ来たのは円満に破談するためでしょ。

 そう自分へ言い聞かせても、彼の言葉が衝撃すぎて冷静になれない。
 結局、私はあからさまに動揺してうまく言葉も返せぬままいたら、成さんが食品に手を伸ばす。

「俺、冷蔵庫にいれるよ」
「あ、お、お願いします」

 私は話題が逸れてほっとしたのを気づかれないようにして、その後は無心で片付けを進めた。
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