身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
「すみません。私、すっかり忘れていて……。お布団は部屋のクローゼットにありますか?」

 すると、成さんはきょとんとして私を見てきた。
 困惑しつつ、私もまた彼を見つめる。

 えっ。最初の案内でベッドルームは教えてもらったけど……まさかね? あれはあくまで成さんの寝室って話。うん、ないよ。ないない。

 頭の中で自己完結した矢先、成さんが堂々と答える。

「え? ここのつもりだったけど」

 そう言って、彼が指をさしている先はベッドルーム。

「え……ええっ⁉」

 私は予感が的中して慌てふためく。

「いや、ちょっとさすがに」
「平気だよ。ベッドはかなり広いから」

 広いか狭いかの以前の問題だ。同室で寝るのはさすがに警戒もしちゃうでしょう!

「ふ、布団はないんですか……?」
「あ~、ごめん。海外から戻ってきたから布団って持ってなくて……困ったな」

 私が愕然としている間に、成さんは「んー」と悩ましい声を漏らしている。
 この流れは……もしやこの後、定番のセリフが……。

「だったら俺がリビングで」
「わー! 無理です! わかりました! 今夜はそちらで休ませてもらいます!」

 予想通りの回答を慌てて遮り、今回も私が折れた。

 彼の家で生活するって話自体が急展開すぎて、詳細まで考えが至らなかった私も悪い。
 ちゃんと想定できていたら、実家から布団でもなんでも持ってきていた。

 すごすごとベッドルームに入り、遠慮がちにベッドに横たわる。
 私は隅のほうで丸まって、成さん側に背を向けていた。

 電気が消され、仄暗い中しばらく沈黙する。
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