身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
俯いて彼の後を黙ってついていく。
着慣れない着物も草履もしんどいし、なによりついさっきのも気まずさが残ってる。ふたりきりの時間が落ち着かない。
「わ、すごいなあ。梓さん、見てください」
「え?」
彼の感嘆の声に誘われ、視線を上げる。
目の前には竹の柵で造られた緑のアーチが数メートル続いている。
よく見ると、紅紫色の小ぶりの花も咲いていた。
「これは萩だったかな」
成さんが花を見つめて言った。そこは萩の花のちょっとしたトンネルだ。
手入れの行き届いた庭は、素人の私でも目を奪われるものだった。
「綺麗……」
「よかったら」
ぼんやりとアーチを堪能していたら、成さんが再び手を差し出してくれていた。
私が困惑していると、彼は笑った。
「この先は石畳ですから。上を見て歩くと少し危ないでしょう?」
「上を? ……ああ!」
突然で一瞬わからなかった。
そうか。萩の花を眺めながら歩いたら危ないって意味か。
「い、いいんですか?」
「もちろんです」
なんとなく断るのも悪い気がして、私はまたもや彼の厚意に甘えた。
遠慮がちに手を重ね、一歩踏み出す。
これはただの善意。色恋はまったくない。だから、ドキドキする必要もない。
そうやって自分に言い聞かせ、落ち着きを取り戻してから萩の花を仰ぎ見た。
枝垂れして花を咲かせている萩は、なんだかこちらに寄り添ってきている気がして可愛らしい。
成さんも歩調を緩めてくれたので、ゆっくり堪能できた。
短いトンネルを抜けた直後、パチッと目が合う。
手は繋がれたまま。
離すタイミングを探っていると、成さんが尋ねてきた。
「梓さんはジョインコネクトに勤務されていらっしゃると伺いました。お仕事はどうですか?」
お見合いなど、初対面でよくある会話といえばそうなんだろう。でも、これはもしかして……仕事を辞めて家庭に入ってほしいというアピールなのでは……?
仮にそうだとして、私には関係ない。結婚しないんだから。
「はい。日々とても充実しています」
私は言葉の奥に反抗心を含ませて、にこやかに答えた。
さあ、どうでる? 表情を曇らせる? バッサリ私を否定する?
まずはこの手をさりげなく離されるとは思うけど。
「そうですか。ちなみに今はどういったお仕事を担当されているのですか?」
「え……っと、コンテンツの取次業務を主に。上司の補佐などもしているので、平たく言えば事務担当でしょうかね」
私の予想は裏切られ、拍子抜けさせられるくらいのさわやかな笑顔で返された。
しどろもどろになって返したら、彼はなぜか楽し気に目を細める。
「へえ。経理のような作業もあるんでしょうか。それなら、私の仕事とも少し近いですね」
んん……? 彼は将来妻になる相手に対して、仕事に前向きなのは特段嫌ではないのかな。
仕事や将来への考え方に相違を感じて、今回の話を考え直してくれたらいいと思ったのに。
粗相のないように相手側から断られるのって、案外難しいのかも……。
どうしよう、と内心焦りを滲ませているときに、成さんの視線を感じて顔を上げた。
着慣れない着物も草履もしんどいし、なによりついさっきのも気まずさが残ってる。ふたりきりの時間が落ち着かない。
「わ、すごいなあ。梓さん、見てください」
「え?」
彼の感嘆の声に誘われ、視線を上げる。
目の前には竹の柵で造られた緑のアーチが数メートル続いている。
よく見ると、紅紫色の小ぶりの花も咲いていた。
「これは萩だったかな」
成さんが花を見つめて言った。そこは萩の花のちょっとしたトンネルだ。
手入れの行き届いた庭は、素人の私でも目を奪われるものだった。
「綺麗……」
「よかったら」
ぼんやりとアーチを堪能していたら、成さんが再び手を差し出してくれていた。
私が困惑していると、彼は笑った。
「この先は石畳ですから。上を見て歩くと少し危ないでしょう?」
「上を? ……ああ!」
突然で一瞬わからなかった。
そうか。萩の花を眺めながら歩いたら危ないって意味か。
「い、いいんですか?」
「もちろんです」
なんとなく断るのも悪い気がして、私はまたもや彼の厚意に甘えた。
遠慮がちに手を重ね、一歩踏み出す。
これはただの善意。色恋はまったくない。だから、ドキドキする必要もない。
そうやって自分に言い聞かせ、落ち着きを取り戻してから萩の花を仰ぎ見た。
枝垂れして花を咲かせている萩は、なんだかこちらに寄り添ってきている気がして可愛らしい。
成さんも歩調を緩めてくれたので、ゆっくり堪能できた。
短いトンネルを抜けた直後、パチッと目が合う。
手は繋がれたまま。
離すタイミングを探っていると、成さんが尋ねてきた。
「梓さんはジョインコネクトに勤務されていらっしゃると伺いました。お仕事はどうですか?」
お見合いなど、初対面でよくある会話といえばそうなんだろう。でも、これはもしかして……仕事を辞めて家庭に入ってほしいというアピールなのでは……?
仮にそうだとして、私には関係ない。結婚しないんだから。
「はい。日々とても充実しています」
私は言葉の奥に反抗心を含ませて、にこやかに答えた。
さあ、どうでる? 表情を曇らせる? バッサリ私を否定する?
まずはこの手をさりげなく離されるとは思うけど。
「そうですか。ちなみに今はどういったお仕事を担当されているのですか?」
「え……っと、コンテンツの取次業務を主に。上司の補佐などもしているので、平たく言えば事務担当でしょうかね」
私の予想は裏切られ、拍子抜けさせられるくらいのさわやかな笑顔で返された。
しどろもどろになって返したら、彼はなぜか楽し気に目を細める。
「へえ。経理のような作業もあるんでしょうか。それなら、私の仕事とも少し近いですね」
んん……? 彼は将来妻になる相手に対して、仕事に前向きなのは特段嫌ではないのかな。
仕事や将来への考え方に相違を感じて、今回の話を考え直してくれたらいいと思ったのに。
粗相のないように相手側から断られるのって、案外難しいのかも……。
どうしよう、と内心焦りを滲ませているときに、成さんの視線を感じて顔を上げた。