8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~
プロローグ
〝また戻ってきてしまった〟
フィオナは、目を開けてそう思った。
赤地のタペストリーが石壁にかけられた豪華絢爛なこの部屋は、ブライト王国の謁見の間であり、目の前の玉座には父が座っている。周囲には政務官を勤める貴族や近衛兵が並び、政略結婚を告げられたフィオナに対し、痛ましい視線を向けていた。
「もう一度、おっしゃっていただけますか? お父様」
膝をついているフィオナは、現状を把握するために、父を見上げた。父王は疲労を隠さず、眉間に手をあてたまま、深いため息をつく。
「……オズボーン王国から和解の提案だ。講和条約を結ぶにあたり、王太子オスニエル殿の側妃として、お前を迎え入れたいと仰せだ。オスニエル殿は二十六歳。側妃とは言え、まだ正妃を娶ってはおらず、実質お前が最初の妻となる」
王座に座る父は、苦渋の表情を浮かべている。仮にも一国の姫が、正妃ではなく側妃として迎えられることの意味を考えれば、それは当然とも言えよう。
(やっぱり、政略結婚の打診の時点に戻るのね)
フィオナは納得して、胸のあたりに手をあてる。
先ほどまで、フィオナは嫁ぎ先のオズボーン王国の後宮で、夫の正妃から盛られた毒に苦しんでいたのだ。喉をかきむしりながら、自分の死にざまを嘆いて目を閉じ、死んだ。
そして、次に目を開けた瞬間が今である。