8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~
 城に戻ってから、フィオナはロジャーに広場で買ってきた花を渡した。

「これは」

「オスニエル様にお見舞いです。どうか生けて差し上げてください」

「それでしたら、ぜひ、フィオナ様から直接お渡しください」

 フィオナは遠慮したが、ロジャーはにこやかだが強引に彼女をオスニエルの私室へと連れていく。
 彼の部屋は執務などをこなす棟の上階に会った。フィオナは初めて訪れる区画であり、今回はドルフも部屋に置いてきているので、全くのひとりだ。

「こちらです。オスニエル様、フィオナ様がお越しです」

 返事はない。しかし、ロジャーは無遠慮に扉を開けてしまった。

「……眠っておられるようですね」

「あ、でしたらこれを枕もとに置くだけで」

「いえいえ、顔くらい見ていってください」

 ロジャーに背中を押され近づくと、予想より苦しそうなオスニエルにフィオナは驚いた。
 まだ頬も赤いし、息も荒い。

「熱が下がっていないのですね。薬は飲まれたのですよね」

「ええ。医師の見立てでは休めば治るとのことですよ」

「苦しそうですが、大丈夫でしょうか」

「そうですね。フィオナ様、よろしければ額の汗を拭いてくださいますか。私は新しい水を汲んでまいりますので」

「えっ、あのっ」

 ロジャーはすたすたと部屋を出ていってしまう。侍女もついておらず、今はふたりきりだ。なんだかとても落ち着かない。

「ひどい汗」

 フィオナは固く絞ったタオルで汗を拭いたが、水が大分ぬるくなっていた。
 誰もいないはずだが、両側を確認し、フィオナはタオルに細かな氷を降らせた。ぬるくなったタオルがあっという間に冷えていく。
 そうして額を拭いてあげると、冷たさが気になったのか、オスニエルが薄目を開けた。

「……フィオナ?」

「大丈夫ですか? オスニエル様」

「俺は夢を見ているのか? 重症だな。フィオナがここに来るはずがないのに」

 どうやら、まだ頭は朦朧としているらしい。夢だと思われているなら気が楽だ。フィオナは力が抜け、微笑んで彼に告げた。

「ええ。夢ですわ。どうぞゆっくり眠って、早く元気になってくださいませ」

「夢の中だとお前は優しいのだな」

 せっかく慈悲の心でほほ笑んだのに、オスニエルはケンカを売っているのだろうか。
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