8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~
 オズボーン王国は武力で発展した国だ。城は山城で、城下町を見下ろせるほど高台にある。
 周囲は攻め込まれるのを防ぐために堀が巡らされていて、東西南の三方に橋がかけられている。
 城門をくぐり、さらに奥まった場所まで入り馬車が停められた。

「姫、到着しました」

 ランドンに呼びかけられ、ようやく目を覚ましたフィオナは、「まだ開けないで!」と叫んでから、髪や服を整えた。

「ごめんなさい。お待たせしたわ。開けていいわよ」

 やがて、ゆっくりと扉が開き、ランドンがエスコートするように手を差し伸べて下で待っている。フィオナはドルフを抱いたまま、馬車を降りた。

 正面には、眉間に皺を寄せた男が立っていた。王太子オスニエルである。
 身長は高く、見上げなければ顔が見えない。フィオナもそこまで低い方ではないが、三十センチは高い位置に頭がある。
 鼻筋が通った美形で、切れ長の瞳は春の青空のような青色。髪は黒く、前髪が少し長く瞳を隠すようにサイドに流されている。軍事国の王太子というだけあって、肩幅があり、腕にも足にもしっかり筋肉がついているのが見て取れる。

(……懐かしい。この人にときめいたときもあったのよね)

 見た目だけなら、オスニエルはフィオナの好みだ。逞しい体つきも、精悍な顔つきも、見ているだけで胸がときめいてしまう。しかし、ループした人生の記憶が、それを押しとどめる。 彼は自分を好きにはならないし、これから娶る正妃ともども、自分をいじめるのだ。どうしようもなく性格が悪い。こっちだって願い下げだ。
 フィオナはドルフを下ろし、しずしずと彼の前で腰を落とし、礼をする。

「ブライト王国第一王女、フィオナでございます」

「よく来た。今宵はゆっくり休むといい。部屋付きの侍女がいるから、困ったことや要望は侍女を通して言うように」

「はい。お心遣いありがとうございます」

 この流れは、一度目の人生と同じだ。以前も侍女がひとり付いたが、彼女はただの報告役で、困ったことを告げても何ひとつ解決などしてくれなかった。
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