8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~
「オスニエル様、この子を同行させる許可を下さり、ありがとうございます」
フィオナはドルフを抱き上げる。ずっと仏頂面だったオスニエルが、一瞬驚いたように表情を崩した。
「ああ。犬を連れてきたいと言ったのだったな」
「ええ。侍女も護衛も置いていく代わりに」
「そうだったな。……まあ犬くらいならいいだろう。だが、寝所を汚すようなことはないようにしてくれ。粗相があれば、即刻追い出すからな」
「気を付けます」
ドルフはやや不満げな顔をしたが、フィオナが力を込めて体を押さえているのを感じてか、吠えることはなかった。
「では私は忙しい。侍女長、彼女を部屋に」
「はい」
そのまま、オスニエルは背を向けて行ってしまう。フィオナはホッと息を着き、控えていた侍女長に連れられていく。
一夫多妻制のオズボーン王国の城には、王の妃や王太子の妃が住む後宮がある。国王の後宮には五人の妃がいて、妃同士が顔を合わすことのないよう、その動線は非常に細かく計算されている。最大五人の妃ができるだけ接触しないよう、内庭も細かく分けられているのだ。
そこを横目に見ながら進むと、王太子用の後宮が現れる。その中で、最も東の端にあるのが、フィオナに与えられた部屋だ。幸い、王太子は他に妃を娶っていないので、王太子の後宮は閑散としている。
歩きながら、侍女長は「実は……」と言いにくそうに口を開いた。
「てっきり、フィオナ様はご自分の侍女を連れていらっしゃると思っていて、私どもの方では、侍女をひとりしか用意していないのです。これからの人選になりますので、時間がかかると思いますが、他に何名の侍女が必要でしょうか」
どうやら、フィオナの申し出はきちんと伝わっていなかったらしい。
「別にひとりでいいわ。そのひとりが大変だというならば増やしてほしいとは思うけれど。自分のことは自分で出来るし、ドルフの世話をしてくれる人がいればいいの」
「では、不便があれば、また侍女を通しておっしゃってください」
侍女長は少しほっとしたように息をつき、歩き続けた。