8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~
 フィオナが侍女とともに自室に戻ると、犬のドルフが駆け寄ってきた。

「クォン」

「ドルフ、久しぶり……って言っても、あなたには分からないわね」

 ドルフを抱き上げてソファに腰掛けたフィオナは、彼を膝に乗せ、灰色の毛並みを撫でる。彼は小さく「クーン」と鳴き、尻尾をパタパタとさせた。
 七回目の人生での輿入れの際に別れて以来だ。懐かしさと共に、フィオナはドルフを抱きしめる。
 狼に似た見た目の犬種だが、大きさは五十センチくらいだ。出会ったのは七年前なので、すでに大人なはずだが、大きさはずっと変わらない。灰色の毛がふさふさしていて、こげ茶の首輪からはみ出した毛が、モフついていてかわいい。

「いい子ね、ドルフ」

「姫様の帰りを待っていたのでしょうかね。かわいらしいこと」

 侍女がほほ笑み、ドルフ用の水をとってきますと部屋を出ていく。

 今の侍女は、一年前からフィオナ付きになった十九歳の女性である。結婚を控えた彼女を、他国に連れていくわけにはいかない。
 そもそも、フィオナの歴代侍女は一年単位で頻繁に変わった。それは、女性の就業期間が短いことにも由来する。未亡人となった女性は割合長く務めるが、縁起が悪いと言われ、王女の周りにはあまり配置されなかった。

 そのせいで、フィオナには心を許せる女性の友人がいない。
 ループしたこれまでの人生でも、連れて行った侍女は心を病んで病気になったり、輿入れ先で馴染むためにフィオナの情報を売ったりとろくなものではなかった。

(侍女は……連れて行かなくてもいいか。あっちでつけてもらえばいいんだもの)

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