8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~

「クォン」
「なぁに、ドルフ」

 甘えるように体をすり寄せてきたドルフの背中を、優しく撫でる。

 フィオナがドルフと出会ったのは十歳のときだ。
 祖父が亡くなってから、父は定期的に結界の守りを確認するために、国中を回っていた。冒険心が強かったフィオナは、父の視察についていくのが好きだったのだ。

 その日、父はルングレン山を訪れていた。フィオナは、近衛師団に所属する父親についてきたローランドとトラヴィスとともに探検にでた。彼らはフィオナの幼馴染で、フィオナが遠出するときは遊び相手として連れ出されることが多かった。
 探検にはもちろん大人の護衛もついてきた。しかし、山のある地点まで来たとき、天候が急変した。

 それまでの晴天から一変、急に雪がふぶき、隣にいる人間の姿さえ見えなくなった。そして、気が付けば、フィオナはひとりになってしまっていた。
 山は木が茂っていて暗く、吹雪は定期的にひどくなる。泣きながら途方に暮れていた彼女の前に、現れたのがドルフだ。

『ワォン』

 近づいてきたドルフを、フィオナは両腕に抱きしめた。すっかり凍えていた体が、生き物の体温を感じて、とても安心したことを覚えている。
 賢い犬なのか、ドルフは怒ることも逃げることもなく、フィオナの涙をなめとり、前に立つように歩いて、人里まで連れてきてくれたのだ。

『ありがとう、ワンちゃん』

 明るいところで見れば、ドルフはフィオナの瞳と同じ灰色の毛を持っていた。フィオナは彼と離れがたく、父に城でドルフを飼うことを認めてもらったのだ。

 それ以来、ドルフは我が物顔で城の中にいる。フィオナが自分の飼い犬の証として首輪をつけて周知したため、ドルフがどこで昼寝していようと咎めるものはいない。
 ドルフはマイペースで気まぐれな犬だ。フィオナに甘えてくるときもあれば、すげなくどこかへ行ってしまうときもある。くっついてくるところを見ると、今は甘えたい気分なのだろう。

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