8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~
 この日は熱く、つめたい氷レモネードは好評を博した。
 一時間もするとすっかり完売し、イブの母親はフィオナの両手を握って感謝をあらわにした。

「本当にどうもありがとう! おかげで借金が払えるよ」

「いいえ。私はこの子に頼まれただけですから」

 恐縮して下がろうとしたフィオナに、ポリーが前に出る。

「今回は契約前ですから、このくらいになりますね」

 手早く計算し、金額を提示する。

「ポリー」

「フィオナ様、駄目ですよ、ただ働きは」

「でも」

 フィオナは戸惑うが、ポリーは頑として譲らない。カイも静かに頷き、彼女を後押しするように言う。

「労働力がただで手に入るなんて思わせちゃいけませんよ」

 ポリーは味方を得たとばかりに瞳を輝かせ、孤児たちの方を向く。

「手伝ったこの子たちの賃金だって発生します。なにより、楽に儲けるのは商人本人にとっても良くありません。この方たちだって、一瞬の施しで楽になるのは一瞬だけです」

 たしかに孤児院の子たちには賃金をあげたい。フィオナならば施しを与える立場であるが、彼らは違うのだ。

『この娘はお前よりしっかりしているな』

「なあに、ドルフ様~」

 先ほどまで厳しい商人の顔を見せていたポリーだが、ドルフが吠えると、すぐに顔が緩む。

「……そうね。ポリーの言うとおりだわ。勝手なことをしてしまったけれど、この子たちの労働の対価はいただかなくては」

「もちろんです。お支払いします。それと、……もしよければ、また氷を作ってほしいのですが」

「氷……」

 氷があれば、また氷レモネードを売ることができる。だが、フィオナは側妃とはいえ王太子妃だ。庶民のようにここで働くわけにはいかない。
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