笑っちゃうくらい解りにくいアイラブユー
こぽこぽと、インスタントのコーヒーをマグカップに入れて、ふたつのそれらをテーブルへと運ぶ。
テーブルの前、私の定位置に座る舌の肥えた彼に、薫りからして安物のそれが口をつけられることはないだろうけれど、形だけ。
「……っ、」
「……あの、無理して飲まなくていいですよ」
「……してない」
の、つもりで出したコーヒーだったのだけれど、予想に反して彼は、それを一度だけではなく、二度、三度と口に運んだ。
しかしその度に、寄せられる眉根。美味しくないのだろう。二ヶ月飲み続けている私でもあまり美味しいとは思っていないのだから、彼にとっては泥水、否、泥湯をすすってるようなものだろう。無理して飲むものではない。形だけなのだから。
だというのに、彼は眉根を寄せては伸ばし、寄せては伸ばしを繰り返す。実はマゾ、だったりするだろうか。そういうのは、知りたくなかった。
「……ここ、」
「え」
「ここには、ひとりで住んでる、のか」
なんて思っていれば、ぽつり、吐き出された音。
「ひとり、です、よ?」
「……本当、か?」
「え……いや、本当に、ひとりで、住んでます」
ちょっと待って。その発言にはどういう意図があるのだろうか。
確かに、安い物件だ。だから、ちゃんと事前に事故物件か否かの確認はしている。事故死や自殺、他殺、等々はないとの回答をもらっているのだけれど、彼には、私には見えない何かが見えていたりするのだろうか。
いや、本当に、ちょっと待って。
そういう、いわゆる、見えてしまう体質だとかいうことも、できれば知りたくはなかった。