笑っちゃうくらい解りにくいアイラブユー

 あの男、なるものについてはひとまず、解決。
 さぁてお次は何だったか。

「……あの」
「……何だ」
「私と煌明さん、って……初めて会ったのは、お見合いの日じゃ、なかったんですか?」

 ああ、そうだ。「見合いで再会するまでの十四年間」について、だ。

「……違う」
「え、と、ごめんなさい。私、覚えていなくて……思いっきり、はじめまして、って言っちゃいましたよね?」
「……ああ。予想はしてたが、あれはなかなかにショックだった。気を抜けば、何故覚えていないんだと詰め寄ってしまいそうになっていたから、すごく疲れた日だった」

 だからあの日、あんなにぶすっとした顔だったのか。
 脳みその片隅で、ぼそりと吐き捨てる。

「ご、めん、なさい」
「……だが、君に会えた嬉しさの方が何倍も勝っていた」
「っ」
「君がいた施設を覚えているか? そこは、僕の両親が支援しているんだ。幼少の頃、連れて行かれた。そこで、君に出会ったんだ。君が四歳で、僕は六歳になったばかりの頃だ」
「……」
「それまで、父や母のすることに興味なんてなかった。黙っていても、多少理不尽に振る舞っても、大人も子供も皆、笑って僕に媚びへつらう。確定された未来がある。僕はただ、【彼らの息子】でさえいれば良かったんだ。けれど君に出会ってから、君が、僕を【ただの僕】として扱ってくれたから、それまで見ていた全てが変わった」
「……」
「大袈裟だと君は笑うだろう。だけど本当に、世界が、変わったんだ」

 なんてこった。私と彼との間に、そんな歴史があったなんて。
 そう思っても、やはり思い出せたりはしない。十四年。人生のおよそ五分の一ほどの時間を、彼は私なんぞに(つい)やしたというのか。
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