笑っちゃうくらい解りにくいアイラブユー
かと思えば、普段ゆっくりと歩く彼女にしては珍しく、パタパタと足音を立ててリビングを出て行った。
置いて、いかれた……?
いや、彼女は「お待ちください」と言った。ということは、おそらく、別室に何かを取りにでも行ったのだろう。
だがしかし。何か、とは、何だ? 彼女は一体、何を取りに行ったというのか。
ダメだ。離婚届しか思いつかない。
まぁ、持ってこられたとしても記入などしない。もちろん判だって押さない。離婚などしない。そのような申し入れなど受け入れない。仮に彼女が僕以外の人間に恋情を抱いたのだとしたら、まず相手を社会的に抹殺しよう。それから彼女を地下室にかんき──
「お待たせしました……!」
「っ」
脳内で、最悪を想像し、それに対する策を何通りかピックアップしていれば、彼女は少し大きめの茶封筒を持って帰還した。
ああ、やはり、離婚届か。
書類が入っているであろうそれに手を入れ、中身を取り出そうとしている彼女のその手首を掴んで、今すぐにでも地下室へ連れていってしまおうか。
いやしかし待て少し落ち着こうか僕。前回とて、早とちりをして自ら突く必要のない藪を突いたのは誰だったか。僕だ。蛇どころの騒ぎではなかっただろう。蛇が出るくらいならまだ可愛いものだっただろう。
「あの、まずはこれを、見て欲しいんです」
余計なことを口走らないように唇を固く結んで、騒がしい脳内会議をまとめていれば、す、とダイニングテーブルの上に写真のようなものが一枚、置かれた。