笑っちゃうくらい解りにくいアイラブユー
「……急ぎか?」
「え、ああ、はい。そうですね」
不動産屋からの帰宅後、電話水道ガスの手続きを終え、夕食を作り、主人が帰宅した段階で「夕飯のときにお話があります」と告げれば、もともと不機嫌そうな眉間にシワが足され、さらに不機嫌さを増した。
私ごときに割くような時間など、彼は持ち合わせていないのだろう。あとで「何故言わなかった」と責められないのであれば別に構いやしないのだけれど、報連相を怠らないというのは、私達の間に設けられた数少ないルールのひとつだ。私から反古にするわけにはいかない。嫌がられようが手順は踏ませてもらう。
「……子供の……話か?」
「……い、え……違い、ます、」
会話が続いた……?
四年目にして起こった異常事態に脳内が騒がしくなって返答の遅れが生じたからか、真一文字に結ばれていた彼の唇に、ぐ、と力が込められたのが分かった。
とはいえ、ひくわけにはいかない。ひとまずこの人を着替えさせよう。
そう思って、「先にお召し物を」と自室に向かうよう促したのだけれど、何故か彼はそこから動こうとしない。
「…………い、からな」
「え?」
「俺は、離婚なんて認めない」
「……え」
「もうこの話は終わりだ。二度とするな」
かと思えば、何を思ったのか、「離婚は認めない」と宣い、私の横を通り抜け、自室へと入って行った。
離婚して欲しい、なんて。言える立場なら、もちろんそれを告げただろう。だけど私は、その立場にいない。彼が言い出さない限り、離婚はあり得ない。だからこその別居だと、それを話したかったのだけれど、「二度とするな」と言われてしまった以上、この話はしないのが正解なのだろう。
「……やっぱり、会話、成り立たないな」
ひとつ、大きなため息を吐き出した。