図書室は正しく使いましょう! ~文学少女と不貞男子は恋に堕ちません?~
1章
入学式
なんとか、間に合った……!
講堂に入ると殆どの生徒はもう着席していた。
親連れで。
私は1人で来た。
両親は既に他界。
足腰の悪いおばあちゃんと2人で暮らしている。
流石に遠くの高校まで来てもらうのは悪いし、仮にこの高校が近くても、あの、殺人的な坂を登ってもらうわけにはいかないし、多分本当に登れないと思う。
席はどこでも良い感じかな?
空いてる席に座ろうとする。
「「あ」」
男の子とかぶってしまった。
「ごめんね。私、後ろ行くわ」
「ども」
「ごめんねぇ。あら、1人なの? 親御さんは?」
男の子の母親に聞かれる。
悪気が無いのはわかってるけど、返答に困る。
向こうも、悪い事聞いたなってなるのが辛い。
私の中ではもう、折り合いは付いているつもりなのに。
「両親は他界していて、足腰の悪い祖母と2人暮らしなんです。なので今日は1人です」
「あら、そうだったの。大変ね。ごめんなさいね」
やはり、すまなそうに謝られた。
同情とか、不憫だなとかそんな感じの香り。
「俺、周防。周防 卓。なんかあったら頼れよ」
ぶっきら棒に、でも、優しい香りがした。
可哀想とか、そゆのは無い感じ。
周防って珍しい名前。
最近どっかで見た気がするんだけど、どこだっけ?
「私は、桜庭 馨」
「カオリか。よろしくな」
「うん。宜しくねスグルくん」
自己紹介をしていたら講堂の真ん中にあるステージに校長先生らしき人が上がってきた。
「えー、新入生の皆さん、えー、この度は、えー、ご入学おめでとうございます。えー、この10代の貴重な3年間はえー」
この人、何回「えー」って言うのかな。
数えてれば良かった。
じゃなくて!
えー が気になって全然話が耳に入らないよ。
「えー、と言うことなので、えー、勉学に勤しみ、えー、イベントを楽しみ、えー、友情を育み、えー、豊かなえー実りある、えー、3年間にしていただきたく思います」
最後はえーがなかった!
「新入生代表挨拶」
あれよね。
入試トップだった人が挨拶するやつね。
私は、フツーに受かっただけだからなぁ。
クラスも普通科だし。
どんな子なんだろ。
「新入生代表 風見 飛鳥です。この高校に憧れて早10年。今、自分がここに立っている事を信じられないのと同時に、とても喜ばしく思っております」
えー、って言わないとこんなにかっこよく見えるんだ。
まぁ、くたびれたジジイと現役のピチピチJKじゃ比較にならないか。
そんな感じで、新入生代表さんはスラスラと挨拶を述べて、舞台から降りた。
私もあーゆーのやりたいなあ。
でも、こんな成績じゃあ無理か。ぴえん。
「続いては生徒会長挨拶」
生徒会長! 生徒会って憧れるよね。
私も入りたいっ!!
高校は部活より生徒会やりたいなぁ、
あの、図書館は生徒会活動が終わってからでも行けるだろうし、部活やったら行けなそうだもんね。
ってか、図書館使う部活あるのかな?
読書部? 文芸部? うーーん、もう少しちゃんと見とけばよかった。
1度この高校に迷い込んで、男の子と探検して、あの図書室を見つけた。
それから、その子には会えていないけど、私はここへの入学を一瞬で決めた。
お母さんもお父さんも応援してくれてた。
お母さん、お父さん、私、合格したよ。
この春から夢が丘高校生だよ。
制服姿、見せたかったな。
「生徒会長の森 優希です。皆さんご入学おめでとうございます。緊張してますか? 僕も緊張しながらその席に座っていたのを良く覚えています。少し息抜きをしましょう。立っても立たなくても構わないですよ。少し伸びて下さい」
おずおずと立ち上がる子と、緊張の所為か座ったままぎこちなく動く子、様々だった。
まぁ、勿論、私は立ち上がるけどね。
前の席の卓くんも立ち上がってる。
「大丈夫。僕も緊張でガチガチ伸びちゃお」
生徒会長がそんな事言うから会場は沸く。
何人かが立ち上がる。
会長が伸びをする。
また、立ち上がる。
「まぁ、もう皆んな、話に飽きたでしょ。僕のスピーチはこんなんで終わり。この学校の魅力はユニークな先生方と自由な校風。そして、素敵な図書館。是非行ってみてね。皆んな、長い話で飽きてると思うからこの辺で。もっと僕の話を聞きたい子はぜひ、生徒会室へ遊びにきてね」
そう言って会長はスピーチを終えた。
なんか、独特な香りの人。