君色を探して
・・・
「残念ながら、顔や体型を変えることはできないからな」
『……似合わないよ』
ロイもそう言った。
けれども、伸ばすのをやめずにいた結果、ここまでの長さになった。
『似合う似合わないの問題じゃない。寧ろ、似合わないから証明できるのだろう? そんなもの、関係ないのだと』
それはまるで、二人の歩みを物語るかのように。
ゆっくりと、しかし確実に進んでいた。
否、二人だけではない。
ジェイダをはじめとする、たくさんの人たちの協力と想いのもと。
ついに、ここまで歩んできたのだ。
「私とて人間だ。……いや、自分だけを犠牲にしても叶えようとしたあいつに比べたら、ずっと弱いのかもしれない」
褒められたことではないが、事実ロイの意思は固かった。
兄の存在を大きくし、国内の分裂を恐れて自らを道化に落としてまで。
ようやく年頃らしい幸せを掴みかけても、手離してみせた。
「だからこそ、切れなかった」
もう無理ではないかと、ロイに告げたくなることもあった。
これ以上は情勢を悪化させて終わりかねないと、主張したくなることも。
そうして俯いた時、決まってこの毛先が目に入る。
『証明してよ、アル』
まだ可愛らしい弟の声は、こう続くのだ。
『……ありがとう、兄さん』
「もう切ってもいいかもしれないと思うが……似合わないと言われても、自分では慣れてしまったからな」
それに、最近は特に気に入っているのだ。
躊躇いがちな細い指が、この髪に触れたがるのを見る度に。
「似合わないなんて思いませんけれど……」
「何だ」
はっきりとは言わないが、エミリアは明らかに不満そうだ。やはり、短い方が好みなのか。
「仰る通り……妬けます」
顔を背けて拗ねるエミリアに、笑いながら口づけを降らせる。
――それならこれからは、お前の為にも伸ばすとしよう。
「お前が長い方がいいというのが前提だが」
「……切らずにいて下さい」
軽く頷き、もう一度囁く。
こらからはもう、戸惑うことはないだろう。
「愛している」
ただ、本心を告げるのに。