君色を探して

「必要ない。立て」


不覚にも涙が出そうだ。
どうにか我慢する為に、ぞんざいに言った。


「嫌だ」

「は? 立てと言っているだろう。ずっとそうして伏している気……」


頑として動こうとしないロイに、心当たりがある。
先程思ったばかりではないか。
どうやら彼は、限界らしいのだと。


「さっさと僕を彼女に会わせてよ。承諾してくれるまで、一歩も動かない」


やっぱり。


「……どっちが手に負えん」

「何でもいいから、適当に任命して。自分はスッキリしてるだろうけど、僕はどんだけお預け食らってると思う!? 」


眉間を押さえ、弱りきったふりをする。
でないと、どうにも笑いを抑えきれない。


「ったく……。ロイ」


若干不安そうに見上げる彼を、いつまでも引き留めてはいられない。
早く自らの幸せに浸らせてあげたいし、何より弟に伏していてなどほしくなかった。


「キースとも話していたが、この先更にクルルとの交易は増えるだろう。往来が活発になれば、中には悪いことを考える輩も交じる。ロイ=クリーク」


名前を変えようと、これまでけして姓を名乗ろうとしなかったとしても――彼は弟であり、ずっと家族のままだ。


「せっかく、本来の姿を取り戻しつつある町だ。任を果たせ。……命令だ」

「……っ、いいの!? 」


ガバッと身を起こし、信じられないものを見るかの如く言った。


「そう言うまで、そこにへばりつくつもりだろう。みっともないし、私は弟に土下座させて喜ぶほど酷くない。しばらく任は解かんぞ」

「……もちろん。ちゃんと務めてみせる」


表情を引き締めるロイに、自ずと口角も上がる。彼なら必ず、そうするはずだ。


「そうと決まれば、こうしていられない」


礼をとったことなどすっかり忘れ去ったかのように、弟はさっさと立ち上がり背を向けた。




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