君色を探して

確かにそうだ。
きっと彼の方が号泣して、ロイを困らせているかも。
その場を想像して笑うと、ロドニーがほっとしたように目元を拭ってくれた。

いつの間に泣いたのだろう。


「未だに私、一人で泣けもしないのね」


気を遣って泣かせてくれたのだと悟り、頬が熱い。


「いいさ。いつの間にか、あの子たち皆大人になって……幸せそうだよ。これからは二人きりを楽しんでも……』

《ふん。ボクの存在、忘れないでくれる?》

「マロ? 」


いつかつけた名前を呼ぶと、軽やかに風が舞う。


《ジェマ。邪魔者がいるのは残念だけど、こうしてキミと過ごせるのは嬉しいな》


「……どっちが邪魔者」


ロドニーが小さく文句を言ったが、彼の耳に入らない訳がない。
ロドニーを遠ざけるかのように、突風が唸った。


「あなたにはいくらお礼を言っても足りないわ。あの子たちを助けてくれてありがとう」

《いいや。ボクは見守っていただけだよ。キミたちより、ちょっとだけ近いところでね》


――立派だったよ。苦しんでもがいて、時に立ち止まったりしたけど。だからこそ、あの子たちは立派だ。


「でも、同じくらいキミらだって。だからジェマもゆっくりしよう。ボクと一緒にね! 」


明るい声で、ロドニーに見せつけるようにそよ風が言った。


「……そうね! 」


大声で空に告げると、夫だけが少し不満そうだ。
なおも言い合いをしている二人に笑うと、そっとロドニーの袖を引く。


「ん? 」


(シーッ)


唇に人差し指を乗せると、不思議そうにする彼の側で爪先立ちを。
こんな子供っぽい悪戯に、ロドニーは呆れることなく付き合ってくれた。

唇が重なるのを、聖霊相手にこっそりできるはずもなく。
何故か夫だけ、可愛い嫌がらせを受けるのだった。








【Gemma・終】


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