君色を探して
Derek
Derek
「デレクさん、お茶はいかがですか?」
椅子に腰掛けると、ジェイダがにっこりした。
「ええ、是非」
その笑顔を見ると断れない。
その必要はないのだが、彼女と二人きりだと何となく困ってしまう。
「すみません。ロイはちょうど出掛けてて」
「いえ。突然お邪魔したのは私ですから。……それにしても、不思議なものですな」
小首を傾げながら置いてくれたティーカップからは、ほんのり湯気が上がる。
白く揺れているのを、のんびり楽しめるとは。
以前のトスティータなら、すぐさま冷めているところだ。
ロイとジェイダの再会から、程なくして。
二人はトスティータに居を構えた。
トスティータと言っても、ほんの端っこ。
禁断の――いや、今ではForest of Jade――翡翠の森を抜けてすぐの町だ。
「何もかも、目新しいのです。こうして、ゆっくり温かいお茶を頂けたり、それほど厚着をせずとも済むことが」
ロイなしでジェイダと二人きり、という現在の状況も不思議だったが、それは言わないでおいた。
デレクにとっては最大の謎だが、何故か彼女に好かれているようなのだ。
「きっと、すぐ慣れますよ。心地いいことが当たり前になるのって早いですから。あんまり慣れすぎて、忘れてしまってはいけないけど……」
頷こうとした間際、ジェイダが遮るように続けた。
「でも、デレクさんなら大丈夫です」
「……そうとも限りませんよ」
ジェイダが城に現れた、あの日。
右も左も分からず戸惑う彼女に、嫌な態度ではなかったか。
遠いあの日、王子が懐いた若者を色眼鏡で見てはいなかったか。
小さな若君に諭され改心した後も、知らずのうちに繰り返して。
「ジェイダ様は、私を買い被りすぎです」
そんな自分には勿体ないことだ。
今もこうして、彼女と同席して――あの方を待っていられるなんて。
「そんなことないです。デレクさんは優しいし、お陰であのお城でも気が楽でした。それに……」
――素敵な、ロイのお父さんです。