君色を探して
「やっぱり、強いね」
いるはずのない人の声がして、ぎょっとする。
この国の王子様が、こんなところに一体何のようだろう。
「アルバート様。またどうして、こんなところに」
戦いの間は一切無になろうと努めていたからか、いつもと違うざわめきに気がつかなかった。
溜息が漏れたのは、彼のせいばかりではない。
彼の行動に無頓着な、まわりの大人のせいだ。
「ちょっとね、君に頼みたいことがある」
「何でしょう? 」
珍しい。
アルバート王子は、微笑み絶やさぬ朗らかな人だが……その内側を触れさせない人だ。
そんな彼が命令ならまだしも、人に頼み事をするなど。それも彼にとってはほんの数回話しただけの自分に。
・・・
だが、ジンは違った。
王子とはいえ、自分よりも年下の男の子。
彼に敬意すら感じている。
あの日彼に出会わなければ、先程の対戦だって負けていたのではと思うほど。
『いいじゃない。君は強い。それが事実だ』
あの日も、こんなふうに試合を見に来ていたっけ。
そして同じような展開になり、その頃はまだ今以上に反応せずにはいられなかった。
何てことはないとでも言いたげな彼が王子様でなければ、いや、そうだとしても掴みかかってやりたいくらいに。
『さらしで胸を潰して、髪を切って。それで君が高みに行けるのなら、そうしたらいい。でも』
――そうじゃない。一番分かっているのは君だろ。
胸を隠すのもやめ。
坊主にでもしてやろうと思っていた髪の先を、バージニアはこの日赤く染めた。