君色を探して
Hana
Hana
開けっ放しの宿の窓が、カタンと揺れた。
カーテンが踊ったと同時に心地よい風が頬を撫で、ふと顔を上げる。
隣の少女――いや、立派な女性なのだが――彼女の黒髪も風に浚われ揺れていた。
じっと盗み見ても、ジェイダはあまりに四苦八苦していて視線には気づかない。
遠目で手元を見ると、綺麗な布地の縫い目が笑っている。
「ぷっ……」
それにつられて、つい吹き出してしまった。
「これでも真面目にやってるのに! 」
真っ赤な頬を膨らませる様は、本当に子供みたいだ。
ああ、だからこそ、こんなに愛しく思えるのかも。
自らのウェディングヴェールを仕立てる姿は、まるで我が子のことのように感慨深い。
「ああ、ごめんごめん。真剣なのは分かってるさ。あんまり怖い顔して縫うもんだから、ついね」
にんまりしながら手を動かしたり、目でこれまでの縫い目を辿ったり。
残念ながら、ジェイダにそんな余裕はなさそうだ。
「そりゃ、眉間に皺も寄りますよ。だって、この出来だもの」
おやおや。
余計なことをしてしまった。
どうにか保っていた気力を、根こそぎ奪ってしまったようだ。
「早まったかなぁ……。一朝一夕で、お裁縫が上手くなったりしませんよね。それも、結婚式のヴェールなんて」
トスティータ王・アルフレッドの弟であるロイ。
その妻となるジェイダとの式は、本来盛大に行われるはずだった。
『そんなのいいよ。ジェイダと結ばれたのはアルバートじゃない。今ここにいる、ただの僕だからね』
ロイはそんなことを言った。
ただ、そうは言っても乙女の夢も理解しているらしく、
『でも、ウエディングドレスは可愛いのが見たいな。ジェイダ、一度トスティータに戻ってドレスを見てみない? エミリアも喜んで手伝ってくれると思うよ』
そう提案していたが。
ジェイダはにっこりと笑って、しかし意見を変えるつもりがないというように首を振ったのだった。