君色を探して


(落ち着くところに落ち着いたかね)


誰しも失ったものはある。
負った傷の治り具合も人それぞれで、しかし、なかったことにはできはしない。


「しっかりやりな。今度はあんた……ロイ自身の幸せの為に」


それでも二人を見ていれば、瘡蓋を見る辛さも和らぐ気がするのだ。


「……うん。でもハナ、そう隠居するみたいな口調やめてくれる? 頼みがあって来たのに、言いづらいんだけど」

「何だい、改まって」


隠居するつもりはないし、第一この宿はハナの住家も兼ねている。
開店休業状態だから、今までどおりに過ごすつもりなのだが。


「確かに僕は幸せだけど。遊ぶ為にここに来たんじゃないんだよ。ここは居心地いいけどね。お仕事なんだから」


それもそうだろう。
クルルとの国境近くのこの町に、彼は赴任してきたのだから。


「この町は便利がいいよね。翡翠の森も近ければ、クルルからや王都から来た人たちの休憩地点にもってこいだ。つまり」


――宿が必要じゃない?


「残念。もうしばらくは、のんびりできないよ。ハナ」


ロイがニヤリと笑う。
悪戯が成功した時の子供のような、何とも楽しげな顔だった。


(あんたとの約束は守れなかったけど)


これから時間はかかっても、たくさんの人が訪れてくれたら嬉しい。
そこにはクルルの人がいて、トスティータの人もいて。
あの時のハナと彼女、今のジェイダとロイみたいに一緒に安らぐことができるように。


「人使いが荒いねぇ、こっちは年寄りだってのに」

「まだまだ元気でしょ。……もっと、ずっと……見せたいものがたくさんあるんだ」


愛しげにジェイダに視線を落とし、無言のまま見つめた。


「ああ。楽しみにしてるよ」


もう少し見守るとしようか。
二人の幸せな未来を。
その先の希望を。






【Hana・終】







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